1 シンギュラリティ

○シンギュラリティという用語

シンギュラリティという言葉を聞きますが、シンギュラリティはそのままでは「特異点」と訳されます。一般的に使う特異点は、関数などでグラフを書くときに、線形や連続性が破れて突然に値が飛躍する点として使用します。時間軸やX軸など増加方向から辿った場合も減少方向から辿った場合も、値に連続性が失われる状態のことです。基本的に連続な変化の中での特異な現象としてのデータであって、単なる変化が急激で目立つ程度のときには使いません。

 

○なぜシンギュラリティが出て来るか

近年、特に昨年から急にシンギュラリティが話題に出るようになりました。

AIのシンギュラリティが急激に一般的な注目を集めるようになったのは、やはり生成AIPCやスマホに標準に装備されて、ユーザーの質問に対して(正誤はともかく)文章構成中に論理矛盾が無く、折り返される会話として成り立っているのを経験したことが、AIが急速にその能力を高めていると感じるようになったためと思います。これは、産業ロボット等による肉体労働の代替だけでなく、AIによる知的労働の範疇にまで人間の労働の代替が可能になった、つまり雇用の喪失がすべての職種にまで及んだと認識されることになったのだと思います。この人の不要感がシンギュラリティだということではないでしょうか。

 

2 人間にとってのシンギュラリティ

AIと人間の能力を比較する

これまでのAIの発達の中で、AIの能力に驚かされるニュースが何度か有りました。それは、シンギュラリティという言葉は使わなくても、AIAI自体かロボットを介してかは様々ですが、人間や他の動物の思考や行動を模倣することができたというニュースです。

ここには人間や動物が優秀であるという認識があったように思います。大きな戦争の後にはヒューマニズムが高揚するという歴史があります。ヒューマニズムは社会的には人間礼賛に現れる場合が多いと思います。AI、当時はコンピュータやロボットですが、それに対して、脳細胞数の巨大性や2足歩行の制御性、思考の多様性など生物の優越性を語る場面が多かったと思います。

 

AIの勝利の衝撃

このような人間能力優越意識は、80年以降に様々な面で打ち破られることになります。様々な機械化、IT化は職人や高スキルを無意味にしました。この、長年、歴史的に培われ、修行と言われるノウハウの獲得努力で手に入れた名人と言われる能力を無意味と実感させられるのは確かに辛かったと想像できます。

 

○産業ロボット等

最初に驚いたのは、自動車の組立ラインを熟練職人からスポット溶接ロボットに移行したことです。人々は多関節アームで最適な方向から各ポイントを溶接していくロボットのスムーズな動きに驚いて、熟練職人はいらなくなったことを実感しました。この事象は各所で見られました。

農業では無人の田植え機でしょうか。耕運機、コンバイン、脱穀、精米など米づくり作業の多くが機械化されながら、機械の動きでは無理だと思われていた、苗を田の泥の最適深度に茎を折らずに押し込む柔らかな動きが機械化され、また実用性が十分確認されて、農家は省力化と均一化がなされました。

 

○将棋ソフト

将棋AIPONANZAが佐藤天彦名人(29)を破りました。AIによる、人間とは違う独創性と最良の指し手の選択は、今まで人間が培ってきたものを凌駕するという意味で、間違いなく衝撃を与えました。以前からチェスがAIに負けるという話題はありましたが、取った駒を持ち駒として使えたり、相手陣地に入ると成駒として強くなるという、将棋というより複雑なルールの上では簡単ではない、という思い込みが短期間で凌駕されたという驚きでも有りました。

 

ASIMO

今でも人間の特徴の第一は直立2足歩行だと言われるくらい、2足歩行は進化の成果であって難しい機能だという認識でした。ロボットへの適応は困難というのも当然と思われていました。何しろ、普通の2足ロボットは足裏に車輪を付けたずり足でした。また2足歩行にしても、下半身だけ、大型計算機にケーブルで繋いで、大きな挙動で動いていました。これを見ながら、多くに人は、重心を片足を上げるのに必要十分な量だけ左右の重心を振りながら、前進のために縦方向の重心を片足で受け止められる移動量分だけ上半身を前に倒すという、多重なコントロールは大量の演算を高速で処理する必要があので小さな期待に収まるはずがないと思われていました。

ASIMOは人より小型で、ケーブルがなく自律行動です。街を歩いていても違和感がないということは本当に驚きました。

 

○生成AI

近年での驚きは生成AI でしょう。もちろんテーマにもよりますが、制作物としてまた言語生成として論文、イメージ生成としてイラストを作成し、一見してAIと人間の作品が見分けられないものも作られるようになりました。従来は、PCやスマホ上で、検索したウェブサイトからカットしてきた文章や画像をソフト上にペーストし、文章の形態や繋がりを補足したり、画像の大きさや色感をあわせるなどの作業を加えて文章やイラストを作成したりしていました。まだ違和感の調整は必要ですが、長編の小説やアニメーションへの適応を狙っていて高度化しています。

 

3 様々なシンギュラリティ

○様々なシンギュラリティ

シンギュラリティにいろいろな意見があるのは、AIに代替させたい人の能力への分析に様々あるからです。作業技量に注目するもの、構成の自然性に注目するもの、発想の独自性に注目するもの、視点の高度性に注目するもので評価が違ってきます。つまりAIITの能力向上で代替される職域がある場合、その能力がその業種を消滅させる機構が出来上がるわけです。

その代替を単なるIT化ではなく、汎用AIの学習機能により獲得するので、人間がそのタイミングを予見できないということが重要です。

 

○ユーザーにとってのシンギュラリティ

多くの人がシンギュラリティを感じるのは、自分がオーダーした仕事で人がやった結果とAIがやった結果の判別ができない状態になったときです。AGIのように、専用の入力ではなく普通に人に頼むようにオーダーして、AIが勝手に人がするように、以前やった前例を見て、やり方を学習して、指定されたデータをファイルから探してきて、前例の書式に従って新たなデーターを入力処理すると、オーダーした人間から見ると作業量は人に対するよりも省力化できる可能性が高いので、置き換えが可能です。

現状では全ての作業に対してAIであるかの判別ができないほどの能力には至っていないですし、各国の細かな法律への適合性判定や各国の文化や用語への細かな整合性が満たされているとは言い難い程度であると思われます。そのような整合性を必要としないユーザーにとって既にシンギュラリティは来ているとも言えます。

 

○メーカーについてのシンギュラリティ

製造ラインはもちろんですが、設計などにAIは活用されます。自動車を考えても、現在はデザインや構造設計などを完成させるために、部材強度剛性データなどと、作りたい必要十分なスケールキャラクターを入力し、データ検索、各種数値設定を行った後にシミュレーションを行い、数値を微調整しながら最適な数値を決定して車を設計します。

この製造において、シンギュラリティの水準を考えると、当初の市場環境や将来の社会環境予測から社会的要求や個人の嗜好方向からモビリティ構想を想定し、採用可能な先端技術予測や材料特性を検索、予測し要求事項に合わせて組み合わせ、実車設計まで持っていく所あたりでしょうか。これでデザインも設計もいらなくなるわけですが、これは近い将来にやってくると考えられます。

 

○科学者についてのシンギュラリティ

科学者研究者のシンギュラリティは全く違うようです。研究者は理論や現象を組み合わせて、あらゆる可能性を空想し理論付けて理解します。素粒子や超ひも理論、マルチバースやホログラム宇宙論など、理論立てした想像力の豊かさに驚かされます。そのような想像力の研究者にとって、AIが既存のデータを使って予測する未知の現象など、多くは想定内であって驚くようなものは中々現れないでしょう。

そう考えると、AIのシンギュラリティは研究者の想像性や理解力を超える必要性があります。これを言葉で表現すると、AIのシンギュラリティは、研究者が想像しなかった隠された物理現象を見つけ出し、研究科が理解できないほどの複雑高度な解法によりその存在の必然性を説明した時、人間を超えたと判断できます。

 

このようなシンギュラリティを発生するAIシステムはどのような学習が必要か想像できず、簡単に来訪するかは予見できないと思われます。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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1 量子とは
○素粒子
素粒子は物質の最小形体を追求した結果得られた現在の最小単位のことです。物は何でできているか?という疑問に対して、ギリシャでもデモクリトスの原子論やアリストテレスの4元素説がありましたが、原子論はドルトンが再発見し、アボガドロの分子の発見で原子の結合により全ての物質ができている、と決定されました。その後に100以上という原子種が最小単位としては不自然ということから、原子に様々な働きかけをして電子が分離されました。ラザフォードは負の電荷を持つ電子に対して原子を中性化する原子核とその構成要素である陽子を提言し後に原子核のもう一つの構成要素の中性子はチャドウィックにより発見されました。その後、陽子と中性子の内部構造としてクオークとそれを結びつける強い力の媒体としてのグルーオンが発見され、既発見の電子、光子と合わせて物質の構成単位としての素粒子となりました。


○量子
光は波動であると言われていましたが、アインシュタインは光量子仮説で、波であり粒子である量子の概念を表しました。電子の不確定性からド・ブロイは電子の波動の性質があることが分かりました。質量のない光子だけでなく電子の波動から素粒子は粒子と波の性質を併せ持った、とても小さな物質やエネルギーの単位であると定義される量子であるとみなされました。
この定義において量子と言ってより重く感じるのは、電子に波動性が乗るということでしょう。

 

2 デジタルコンピュータ 
○演算
デジタルコンピュータは演算をします。2進法をスイッチのオン・オフに割り付けて、1加えるとオンオフを切り替える、オンをオフに切り替えるときには隣のスイッチをオンにする、という規則だけの単純機構を回路にしたものです。その回路は、インプットとアウトプットを予測した演算を設定し、条件を入力データとして、ひたすら2進法の足し合わせを繰り返して、その結果を予測アウトプットに従って計算値、比較結果、オンオフスイッチングをアウトプットするものです。


○なぜ遅いか
2進法のために、1/2の確率で発生する下のビットの繰り上げの有無の決定を待たないと上の桁の計算ができないために、下の桁計算の終了をしる必要があります。そのために、ビットスを切り替えできるのに十分な時間を最小単位として、作業締め切りを作ります。それをクロックとしてクロック毎にビットの桁を上げながら計算することになります。クロックは周波数で表しますが、その数値は独立した計算ならば平衡で実施できますが、カスケードな計算の場合、全てのビットのクロックの合計だけ時間がかかることがわかります。

 

3 アナログコンピュータ
○道具としてのアナログ・コンピュータアナログコンピュータは、電気的な汎用コンピュータや機械式の計算尺が思い浮かびますが、専用機器の方に需要があります。私が最初に携わったものは速度と旋回Gを電流に換算し、電流分だけホログラムの付いたジャイロを動かして見越し角を表示するガン射撃照準器でした。実はアナログ計算機の原理を知る道具はたくさんありまして、星座早見盤などはその典型でしょう。片面で月日と時間を矢印に合わせると、もう片側に星座の配置が現れる仕掛けです。


○なぜ速いかアナログの特徴はインプットがなされたと同時に計算結果が出力されます。これは入力と出力に因果律が有るからです。論理的な因果律の高速性は当然ですが、電流量などの演算媒体の因果性も考えられます。他にも計算に適合した因果律を持った媒体は、水、バネ弾性、歯車などたくさんあります。因果が確定されたものは因を決定した時点で果は自明になります。

 

4 バイオコンピュータ

○DNAコンピュータ
バイオコンピュータの最も教義の示すものがDNAコンピュータと言われています。DNAの塩基対をビットとしてDNA1本で1種の状態を表して、可能性の有る事象を揃えて有る条件下におくと、条件下の最適事象が最も多く残存するという可能性を利用して演算するというのが正しいのではないでしょうか。汎用計算は困難ではないでしょうか。


○生体コンピュータ
バイオコンピュータとして注目されたのは生体コンピュータ、特に粘菌の行動です。粘菌は多様な通路の片方に餌を置くと、餌と本体間に吸収体を伸ばすわけですが、多様な通路から最短距離のルートに収斂し、他のルートは本体に戻ります。このような生物の嗜好や代謝や複製、輸送などの生体反応が演算式として活用されることも考えられています。

 

5 量子コンピュータ
○量子コンピューターは量子ビットコンピュータ
やっと量子コンピュータの話ですが、多くの量子コンピュータは量子論やミクロの不確定状態を利用してもいません。いわんや、量子挙動を起こす特殊な素粒子クオークやグルーオンをビットに使ってもいません。将来的には有るかもしれませんが、計算は通常の素子を介して行われます。
どこが量子かといえば、使用しているビット、デジタルではスイッチオンオフの部分が量子ビットと言われるものでできています。


○量子ビット
量子ビットは波動的に表されます。通常のデジタルでのビットはノイズを十分に考慮した電圧の閾値を設定し、ビット分のクロック時間中にその閾値を超えた信号を計測したらそのビットはオン信号、計測しなかったらオフ信号として二進法化して数値を回路上に構成します。
電子は超伝導状態では高いコヒーレンシーを持つために、それを利用して波動を量子性として利用できます。高周波数を短距離で重ね合わせて、は電子など量子性を持つ素粒子の波動をそのまま信号として利用すると、波動は一つに見えますが、重ね合わした波は重ね合わせの中でも保存されています。そのため重ね合わせた信号を一つの信号として処理しても、処理後の信号内で保存されているので、計算後に分離することができます。


○量子コンピューティング
重ね合わせて多重な計算ができるのでクロックで左右される割合が小さいため、大規模演算が高速で行うことができます。問題は出てきた回答が重ね合わせた状態ですので、分離しなくては数値が取り出せない場合があります。回答が含まれていることは明確ですが、個別の数値は表に出て来ない場合が多いです。正解の存在がわかれば良いという演算もありますので、その場合正解波動で共振の存在を検出すれば分離する必要はありません。確かに深層学習アルゴリズムなど、正しく働いたかの検証は正解出力の存在があれば十分でしょう。
その意味で、使える演算を増やしていくことが重要と言われています。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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○カティーサークというウイスキー
我々にとってカティーサークといえば、スコッチウイスキーのことです。二弾絞りの肩の張った細い緑の瓶に鮮やかな黄色のラベルを見たことは有ると思いますし、酒屋に行けば必ず見られます。ラベルには白い帆布に黒い船体のきれいな帆船の絵が書かれており、この帆船が名前の由来のカティーサーク号です。

 

○スコッチウイスキーとは
スコッチウイスキーの発展には国家の無知のために発生した悲劇として有名なダリエン計画が影響しています。グレートブリテンは、スコットランドのダリエン計画の負債をイングランドに補填してもらうための1707年合同法により、イングランド王国とスコットランド王国が合併し、連合王国として建国されました。その時イングランドは補填額の回収のためにスコットランドに高額な酒税を設定しました。それに対抗すべくスコットランドの醸造所の多くは密造所になりました。密造所になると、そこで作る酒はスコットランド外とは交流できないことになりますし、切磋琢磨する相手はスコットランド内の醸造所だけになり、原料も水も製法もローカライズされたものになります。また販売も瓶にラベルを貼って販売することができないため、醸造樽に入れたまま、その日消費する分だけ樽から何ショットか分だけ量り売りするので、酒は樽のフレーバー影響が強くでる癖の大きいモルトウイスキーになります。

 

○カティーサークと禁酒法と「the real McCoy」
実はこのカティーサーク、普通にスコットランドで生まれて飲まれたウイスキーではありません。カティサークの誕生は1923年、時は1920年といえば米国の禁酒法。1933年まで続く禁酒法はアル・カポネの密造酒を生んだだけではありません。この主役は密輸の専門家マッコイ船長で、彼が開拓したルートは、バハマに正規輸入され入管したカティサークは、ナッソー港で船に積まれた大西洋を北上し、奴隷貿易時代に奴隷が作ったサトウキビで作った砂糖と、ラム酒を運んだルートを通って着いたニューヨーク沖まで運びます。輸送した側が捕まらないように米国の領海外で、手配した密売人の船に“瀬どり”されニューヨークに持ち込まれます。この逮捕される密売人の中には密造酒を作っていたアルカポネもいました。
マッコイ船長の密輸品は中身のすり替えや中抜き等がなく、スコッチそのものだったために、良い酒の合言葉がマッコイルート品であるという意味の「リアル・マッコイ」になり、これが俗語の「最高」の意味に転じたらしいです。

 

2 ティークリッパーのカティーサーク
○ティークリッパーとは
船のカティサークの話に移ります。カティサークはラベルになるくらいなのでとてもルックスの良い船です。何しろ最後の帆船とも言える船なので、帆船技術のすべてを注ぎ込んでいます。姿よく見えるのは、船体がスマートでとてもスタイルの良いこと、その細身とそう大きくない船体にも関わらず、船体全てを覆い隠すような、3本のマストに32枚のセイルを貼っています。特にクリッパーだけに見られるマスト最上部の3枚のムーンセイルと、フォアマストからバウスプリットに張られる3枚の三角のジブはこの船の特徴です。このたくさんのセイルはなんと弱い風や風向きが違う風であっても加速力を出せるという、高速帆走技術の結晶です。

 

○英国にとっての茶
なぜそんな高速船が必用だったかですが、それはティクリッパーの名前にあります。英国は海外進出により中国と交易ができると、お茶の虜になります。硬水で飲みにくい又衛生的でない英国の水は飲料には適さず、飲用にはビールやジンにして殺菌して飲用にしていましたので、アルコール中毒は英国の大問題でした。お茶はその代替になり、日常値用のために大量のお茶が必要になったわけです。

 

○茶とクリッパーと船の高速化
お茶と言って連想されることに、アヘン戦争の要因になったということもあります。英国には輸入する茶葉と釣り合うような有効な輸出品がまったくなく、支払う銀で国内の流通銀が払底し、商業が成り立たなくなるために、国内で違法なアヘンを輸出品に使ったと言われています。
そんな英国は、18世紀初頭までに産業革命を成功させ、1830年代から「世界の工場」として格安で競争力の高い商品の製造が可能になりました。大量の製品を売りさばくためには市場の拡張が必要になり、自由貿易を推進する立場になりました。その結果、東インド会社の貿易独占や自国船貿易に限定する「航海法」が廃止されると外国船もイギリス貿易に参加できるようになり、茶葉の輸送も競争の時代へと入りました。
その結果として、1850年代からお茶をできるだけ早く、大量に輸送するティークリッパーが活用されるようになりました。とりわけ新茶の輸送競争は速い船の茶葉にプレミアが付くティークリッパー・レースとしてさかんになりました。

 

3 タムオシャンタのカティーサーク
○タムオシャンタの牝馬を思え
カティサークはロバート・バーンズのタムオシャンタの詩に出てくる妖精のことです。妖精の名前はナニーですが、ナニーはシュミーズだけの姿だったので、タムはナニーのダンスを除き見て、“Weel done, Cutty Sark”(いいぞ、シュミーズ女)、と叫んで見つかって追いかけられた事によります。 
タムオシャンタの妖精は、メグという名の牝馬で逃げるタムを執拗に追いかけます。追いつかれそうになりますが、妖精が馬の尻尾に手がかかったと同時に、川を越えられない妖精の領域の橋にたどり着きます。タムは助かりますが、牝馬のメグは尻尾を失ってしまいます。
最後に作者ロバート・バーンズはこの詩の結論を述べます。『酒』や女など不埒な楽しみには犠牲が伴う、「タムオシャンタの牝馬を思え」

 

○スコットランドにおける魔女と妖精
タムオシャンタには多数の幽霊と妖精が出てきます。何と言ってもスコットランドはハリー・ポッターの国で、妖精事典が存在するほどに多様な妖精が存在します。これはケルトの文化だと言われています。真夏の夜の夢やアーサー王物語など、島のケルトの文化には妖精の存在は欠かせません。
ケルトは様々な説がありますが、ローマ史でガリア人と呼ばれる民族の一部でしょう。ローマなど記録を残した国家において蛮族の分類はあまり意味を持ちません。単にローマ帝国繁栄期に西ヨーロッパに存在した部族群の総称というのがケルト、ガリア人ということでしょう。彼らの社会はアミニズムであり、その感じ方が妖精なのでしょう。キリスト教はハイレベルな宗教でなかなか庶民に浸透しませんでしたので、カトリックは人治主義で、軌跡や聖遺物、魔女などを使って柔軟にアミニズムを取り入れています。

 

○カティーサークという衣装
短いシャツイコールシュミーズという表現は女性下着イコールシュミーズということを示しています。この頃のスコットランドでは男性下着はシャツ、女性の下着はシュミーズしかないということで、どちらもサークとよんでいたらしいですが、カティサークは女性用下着を指しますが、多様性はなくとても質素だったということです。
もともとシュミーズは、胸とウエストを矯正するコルセットと、ヒップの強調とスカートにペチカートの重ね着と合わせて広がりを与えるパニエという骨組みの付いた硬めの補正下着を着けるために、肌と補正下着の間にどうしても必要になる緩衝材としての下着です。この、コルセット、パニエ、シュミーズがロココの優雅なドレスを支える発明と言えます。
このすぐ後にエンパイアスタイルで、補正下着なしに直接ドレスを着るようになり、肌に引っかからず滑らかにヒラヒラさせるため潤滑性下着としてのスリップが出てくるのとは違い、コルセットとパニエの緩衝材なのでそれほど長くする必要はないということになります。なので、コルセットなどを脱いだ後、室内で夜くつろぐときの女性の姿は短いシュミーズだけということになります。カティーサークは女性のくつろいだ姿ということになります。
それを覗いたのだから、怒って追いかけられるのもわかります。
蛇足ですが、このエンパイアスタイルはナポレオンが破れての共和制帝政期から王政復古ですぐに大きなドレスに戻りますが、パニエは鯨のヒゲの利用により裾まで枠を広げ、ペチコートを重ねる必要がなく、膨らんだ割に重くないスカートになります。広がったドレススタイルは18世紀と同じですが19世紀は確実に進歩が存在します。

 

○ロバート・バーンズとスコットランド
スコットランドの詩人として、日本人は学校でウォルター・スコットを学びますが、スコットランド人と仲良くなるにはロバート・バーンズについて語ることと言われます。スコットランド文化の象徴的存在でありスコッチを何よりも愛した詩人は様々に呼ばれていて、「農民詩人」「スコットランドの息子」「スコットランド最愛の息子」「スコットランド民族の誇り」「スコッチウイスキーの吟遊詩人」ともいわれています。
ロバート・バーンズを知って、通常の学校の勉強やメディアの視聴でわかっているように見えて、実はわかっていないことは多く有るのだと思いました。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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1 基礎
○生活の中の様々なレーダー
レーダーと言って普通に思い出すのは、天気予報で見る気象レーダーと交通取締りのオービスレーダ、スピードガンレーダーなのでしょうか。それでも、数年前に韓国海軍が自衛隊の哨戒機にレーダー照射したというニュースで、武器を発射するためにもレーダーが使われていることを知った人もいるかも知れません。
○レーダーは何を計測しているか。
電波などを使って、遠距離にあるものを探知する装置があります。気象では雲と雨滴の方位距離、風速など、オービスでは自動車の速度、スピードガンではボールの速度を測っています。その中で、特に方向と距離を測るものをレーダーと呼びます。
○レーダーの一般的原理
レーダーは最も簡単に言うと、電波を送信して対象に当たって反射してきた電波を受信する装置であり、距離は電波を矩形パルスとして弾のように撃ち出して跳ね返って帰ってくるまでの時間、方向は電波の跳ね返ってきた電波を上下左右4象限のパターンを構成したアンテナで受け、その受信電力の比率から計算し、速度は電波の周波数のドップラー偏移から計測しています。
多くの電波が飛び交っている領域では、送った電波と受けた電波を同じものと見分けなくてはいけませんが、それは主として周波数とPRF(パルス繰り返し周波数)で同定します。周波数は送信機が発振する搬送波の周波数ですが、PRFは搬送波を出したり止めたりして矩形に整形したパルスの発射頻度を周波数として表したものです。高性能なレーダーでは送信機の搬送波の波形を記憶し、受信電波の波形のコヒレンシーの度合いでも同定しています。
○レーダーの一般的課題
レーダー電波は二次元球面として広がりますので、距離の2乗に比例して減衰します。それが片道で、帰りも2乗ですので減衰は4乗に比例することになり、遠距離ではとても小さな受信電力になります。
ノイズ環境にある場合、ノイズに相当する電力を0レベルとする閾値を設定しますので、受信電力と判断できる電力は一層小さくなります。補足しようとする目標やその付近からの電波妨害がある場合はノイズが信号パルス以上になり信号パルスが埋もれてしまう可能性もあります。
○その対策
周波数ホッピングは常時または妨害などノイズの上昇を検知した場合、使用する周波数を変更します。妨害源は妨害中は対象の使用周波数をモニターすることはできません。妨害源は時々妨害を止めて対象の使用周波数を確認し、ものとの周波数に留まっていない場合は対象の周波数の計測を試みます。
またパルス圧縮はパルスを時間積分することによって、受信後の信号パルスの尖頭出力を上げて、ノイズより高いパルスを形成します。受信後の捜査なので妨害者にはわかりません。
スプレッドスペクトラムも最近の手法です。パルス圧縮とするのですが、時間軸ではなく予め分散した周波数帯域を狭帯域に重ね合わせて高いパルスを形成するやり方です。圧縮するもとの信号自体を周波数分散していますので周波数検知がされにくいという利点があります。

 

2 捜索レーダー
○全方位性
捜索は、雲にしろ飛行機にしろ、どの方向から来るのかわかりませんから、ある一定の方位領域を走査します。気象レーダーの場合は機械的にアンテナを360度旋回させる物が多いようです。機械的に回す場合は、上下に扇を開いた形状の電波ビームを形成してそれを一周回して全方位を創作します。この場合には上下は位相が異なるビームにして高度を計測します。昔は上下にアンテナを振る測高専用のレーダーもありました。
軍用の捜索レーダーはグループになっていて、其々の担当方向がありますので、アンテナを全周囲振る必要がないため、現在ではアンテナ素子を多数平面に配置した電子捜査の物が多いようで、それを窓ガラスを拭くときのように空中の領域を満遍なく捜索します。
○リフレッシュレートが低い
このようにある領域を捜索することから、目標を見つけてもその間に当てているレーダーパルス数はそう多くはできません。また同じ目標を次に見つけるのは次の捜索タイミングになります。その間に目標が高速移動する場合は、大きく違った位置で再探知することになります。
○距離方位計測は難しい
捜索レーダーはレーダーパルスの往復時間で距離を測ります。そのため打ち出したパルスが返ってくる時間を計測する必要があり、パルスが返ってくるまで次のレーダーパルスは打ち出せませんので捜索範囲内に目標がいる間に目標に当たるパルス数は少なくなります。目標を捉えるパルス数が少なく、また遠距離を捜索するためには減衰の大きさを考慮してパルスは高パワーが必要なために長いパルスを使用します。パルスが長くなるとパルス幅自体がかなりの距離に相当しますのでその分は誤差になります。またヒットパルス数が少ないと、平均値や分散が不正確になりますので距離、方位の精度は低くなります。
○追跡はAIの予測
このように正確性が低くレートが低い捜索レーダーは目標を見続ける事ができません。他も探すために見つけた目標から次々に目を離します。そのままでは捉えた対象を同定して連続運動体として認識することはできません。雲であっても敵機であっても重要なのは未来予測なので、このままでは役に立ちません。そのため、AIなどのよって前後の補足データが移動の結果であることを推定します。

 

3 FCSレーダー
○FCSとは
武器使用に必要なデータを計測するためのレーダーを主体とするシステムをFCSといいます。目標を見つけるだけでなく、目標の状態を計測する必要があります。武器を使用するには最低限、目標と自分との相対位置が必要です。また、命中精度を高くするためには、武器が目標に到達する時点での移動を含めた目標位置を予測することが必要です。前述の捜索レーダーではその計測が難しいのでFCSレーダーには捜索に加えて補足と追尾という機能が必要になります。
○ロックオンとは
ロックオンという言葉を聞いたことがあると思います。多くの対照群の中から特定の個体を識別して集中してデータを取る時に使います。働きは指定された目標を他の目標から分離する捕捉とその目標に高頻度でパルスを照射しデータを収集する追尾の2段階に分かれます。
捕捉というのは、ある事前設定した条件での自動、または捜査員による手動選択で、捉えようとする目標を決定します。そうするとシステムはその目標に対して、速度、距離、方位にゲートを掛けます。ちょうどカメラでズームするようになります。目標がゲート内に入る確率を上げるようにゲートのハイとロー間隔を狭めて行き、外れない最小幅に達した時に補足を完了します。
追尾は目標のデータを集積する行為です。3軸全ての速度、加速度、角速度、各加速度を集積します。そのデータを使用して選択した武器に対して命中させるための発射データを作成し、ディスプレイ表示し、ミサイルならばミサイル側に目標との会敵予測位置と会敵にかかる時間を送信します。
○高精度のためのPRF切り替え
追尾に入るとレーダーはパルス数を増やしてデータの精度を上げます。パルスが多くなると発信したパルスが返ってくる前に次のパルスを送信することになりますが、距離は決定していますのでその距離に適した送信と受信の組み合わせは算出できます。

 

4 ミサイル用レーダー
○IR誘導とレーダー誘導
武器に目標データを送信すると書きましたが、ミサイルにもレーダーが載っているものがあります。ミサイルの誘導システムは大きく分けて赤外線(IR)方式とレーダー方式があります。主としてIRは短距離、レーダーは中長距離を担当します。また、バリエーションという意味でも航空機の場合にはこの2種類のミサイルを混載し、目標に対応して使用している場合が多いです。IRのいいところはとにかく安いです。そして実質的には追尾ジンバルがついたIRカメラなので軽くて小型化できます。短距離なので急加速してIR源をカメラの真ん中に来るように高旋回でぶつかっていけばいいのでとても機構が簡単です。
○レーダー誘導ミサイルの利点
レーダー誘導ミサイルの利点は目視外攻撃能力でしょう。システムの管制誘導用レーダーが追尾さえできればどのような距離でも攻撃可能なものもありますのでミサイルの燃料さえ可能なら長距離での対応が可能です。レーダーの電波は距離の4乗に反比例すると書きましたがこれは、目標に向かって飛んでいくミサイルにとっては低出力でも細く追尾ができることを示しています。また速度が早いことも利点があります。相対速度が大きく取れることはドップラーレーダーにとってノイズフリーになり、小さな出力でも信号とノイズの比が改善します。
○捜索はIDのみのレンジスキャン
ミサイルのレーダーは特異的です。マッハ2以上で飛行するミサイルは速やかに目標を捕捉追尾する必要があります。そのためにはミサイルは捜索しないで、いきなり捕捉から入るようなシステムになっています。これは事前に発射母機の追尾データから目標情報が発射タイミングでミサイル側に送られていて、ミサイルは自分の速度と移動距離により補正して、目標方位距離をほぼ確定しているので距離と速度のゲートは作成されていて、速やかに追尾に移行できます。
○距離、方位、速度がわかる利点
中長距離ミサイルが距離方位速度を計測するのは、遠距離から発射するために会敵までの時間がかかるために、その間に向かってくる目標が機動反転すると攻撃可能距離が激減します。向かい合う場合は相対速度が大きくなり現時点で離れていても会敵できますが、追いかける形だと相対速度が小さくなり近くても接近できなくなります。中長距離ミサイルは飛翔する距離を節約するために、相対速度、相対位置から最短距離の会敵位置を計算して、目標を追いかけないで将来位置へ向かって飛んでいきます。射撃や弓などでリードを取る行為と同じです。将来位置を予測して追尾すると発生する旋回も緩やかで対応可能になります。大型で長いミサイルにとっては旋回Gを減らせるのはとても有効です。
○高精度の必要性としての弾頭威力
誘導精度は結果的に目標との交差距離になります。距離ゼロならば直撃ですが、IRにしろ電波にしろ、ある距離にまで接近すれば受信強度は飽和してしまい、アンテナを振っても方位による差がなくなって方位に誘導ができなくなります。それが誘導制度の限界で、それ以降の誤差は弾頭の性能で対応します。弾頭はミサイルの周囲方向に弾殻を散布して効果として10m程度の誤差を解消します。
○近接信管レーダーシステム
ミサイルにはもう一つ別のレーダーが搭載されています。目標を検知して弾頭を起爆させる近接信管のレーダーです。信管システムは、目標が弾頭の威力範囲内に入るまでの余裕時間、信管作動時間、弾殻飛翔時間を合計したタイミングで信管起爆信号を発生させるシステムなので、性能として探知から起爆までの全てを20ms程度で収めなくてはなりません。結果として探知距離は数十メートル、高パルス頻度にからミリ波レーダーに帰結します。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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1 空飛ぶクルマとは
○イメージとしての空飛ぶクルマ
メディアで空飛ぶクルマが語られる時によくあるのが、渋滞で動かない車列にある車のルーフからローターが出てきて廻り始め、空中に浮いて渋滞の先頭まで一気に飛んでいくというイメージです。つまり普段は気楽に道路を走って、事故渋滞などで予定に間に合わない場合に渋滞区間を飛行機で飛び越えて、時間を節約するという感覚です。普通のセダンでルーフからローターが出て来てヘリコプター、ボンネットからプロペラ、ドア下から翼が出てきて小型飛行機に変形すると言ったイメージです。
○空飛ぶクルマで思うもの
何しろ、空飛ぶクルマのイメージの原型は流星号でしょう。それより明確なものはスーパーマリオネットのジョー90のマックスカー、あとはバックトゥザフューチャーのデロリアンでしょうか。やはり自動車が飛行機能を持っているというイメージが強いです。
○名称の不確かさ
日本政府では空飛ぶクルマという名称を使っています。このクルマをカタカナ表記することで、クルマは自動車などの車ではなく、自家用車、タクシーのように身近に有り、気軽に使えるモビリティということを表現したということです。つまり、クルマにはパーソナル以上の意味はないようです。しかしながらパーソナルには電動と垂直上昇の意味合いを含ませている。そのため、空飛ぶクルマはパーソナル電動垂直直離着陸飛行機という意味合いの表現となります。でもこれは政府が主導したり援助したりするプロジェクトの企画であり、垂直でなくてもドローンでもいいようです。

 

2 車は飛ばない
○クルマに必要なもの
車が車であるための条件があります。まず、移動するために地面を後ろに押し出すための車輪を持っていることで、力を加える対象がしっかりとした地面であり、後ろに蹴り出すためにはある程度の重さで車輪を地面に押し付ける必要があるということです。
重さを持って地面に押し付けるためには車体強度と車輪から来る衝撃を吸収し追随する剛性が必要で、しっかりとしながら柔軟な構造が必要です。
○車に必要がないもの
自動車は地上という平面を走ります。道路しか走れませんので自動車自体に位置制御機能はいりません。下も上もないため視野を限定した覆う構造が取れます。明確な交通規則が有り、一旦停止も走行を止めることもできるので、走行を監視することも、無線により各所へコンタクトして自分の存在を知らしめる必要もありません。

 

3 空を飛ぶとは
○空を飛ぶのに必要なもの
第一に浮力装置が必要です。小型飛行機ではプロペラや翼です。プロペラは飛行機では推進力を、垂直離着陸ドローンでは浮力そのものを与えます。翼を浮力装置というのは重い機体を弱いモーターでも翼から生じる揚力を利用して浮力を得るための揚力機材です。ここで、翼とプロペラを併記したのは垂直離着陸ドローンとヘリコプターの違いを明確にするためです。ヘリコプターの頭の上で回っているのはローターブレードという回転翼でプロペラではありません。プロペラは気流を後方に起こしてその反動で進んだり、機体を空中に引き上げたりしますので、空気の中を移動することで揚力を発生させ浮き上がれせる回転翼とは機能が全く異なります。回転翼は空気との関係だけですので下に機体があっても関係ありませんが、プロペラはプロペラの後ろには期待があれば自分で自分の機体を押し付けることになりますので、クリアである必要があります。そのため垂直上昇用のプロペラは機体から大きくはみ出す構造にならざるを得ません。
そして軽量な機体も必要です。浮上には推力重量比が重要ですので機体が軽量化すると原動機の出力を下げることができて小型化でき、それにより機体が軽量化しますので、また推力を減らすことができます。そのため機体はひたすら軽量化を目指します。
○空を飛ぶのに必要ないもの
空を飛ぶのにしっかりとした車輪は必要はありません。重い機体で離着陸に重い機体を支えての長距離の滑走を必要とする機体は、しっかりとした接地面積やサスペンションを持つ車輪が必要ですが、垂直の離着陸や軽量な機体をすべらせればいい場合はスキッドと言われるソリとそれに小さなキャスターを付けて対応可能です。
機体強度も必要がありません。地上と異なって空を飛ぶ場合、地面からの直接の衝撃はなく、地上でも上空でも衝撃が発生するような硬い物質との接触や衝突もないので、機体は内部構造を守るための硬性容器である必要はありません。現に操縦席を含めてフレームだけの機体も存在できます。

 

4 軽量化とはどういうことか
○機体の軽量化
飛行する場合、車体重量により安定を確保できる地上走行と違い、周囲環境動乱に対する余力が必要です。そのため、ドローン・ヘリコプター・軽飛行機など、低出力の原動機にならざるを得ない機体では、翼やローターが揚力を確保できる対気速度を確保できないため、機体を飛行させるための推力重量比を確保するには機体の軽量化しかありません。
航空機はどのような機種でも素材選択や厚肉の削ぎ落としなどの手法で必要な軽量化がなされていますが、目的によって安全機構の重畳性や耐久性を大きく確保する必要があり、結果として推力重量比の重量部分が増加してしまうのでそれは推力側の上昇で補填します。それでまた重量が増加するために、僅かな重量増加でも雪だるま式に重量増加してしまうことになります。それを避けなくてはならない小型飛行機やヘリは推力重量の割合は、安全機構の重畳性や機体の耐久性、整備性重量すら削って出力余剰を確保しています。
それでは安全や耐久性をどうやって代替するかが問題になりますが、運用で対応することになります。その代替案としていくつかありますが、まず安全性については、河川敷の広場や校庭、運動場などの不時着可能場所を常に確保しながら、その場所をたどるようにちょうど雨の日に水たまりを避けるように、不時着可能場所から遠い場所を避けるように飛行ルートを考えます。耐久性については、定期検査を短間隔にして、フレームの歪みや亀裂を中心に検査し、亀裂の止めリベットの後に当板や溶接などで最低限の補強をします。つまり、亀裂や歪みは想定内で、弱い場所へのダメージ具合を「炭鉱のカナリア」にして低耐久性下での安全性を確保します。
○燃料の軽量化
航空機にとって燃料は重要課題です。それは、本来、乗客や荷物をできるだけ多く遠くに運びたい場合、多くの燃料を搭載する必要があります。そうすると燃料重量の分だけの得られる乗客や荷物の量が減少します。そのため、エンジンで燃料を燃焼させてパワーを得る航空機の場合、タング自体は樹脂製で軽量なために、出発地と目的地の位置高度関係、天候、貨客重量に応じて必要最小限の燃料を搭載します。電気モーターの場合、燃料電池搭載時はエンジンと同様ですが、蓄電池搭載の場合は電気量ではなく電池重量が影響するため、電池自体を増減する必要があります。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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1 人間は知的生命体を見たい
○知的生命体探索
近年、宇宙関連事業に地球外生命体の探査を目的とする電波観測や火星や木星のエウロパへの観測衛星打ち上げが見られるようになりました。地球以外に生命が存在すると主張する研究者は多いですが、宇宙のどこかに地球型惑星があり、宇宙人の存在確認がある程度の可能性を持つと言われるようになりました。地球外生命体を宇宙人と言うためには意思疎通可の存在でなくてはならず、その場合を知的生命体と呼称する場合が多くなりました。
○地球外生命体探索
地球外生命と知的生命体の違いはどんなところでしょうか。知的生命体探索では宇宙からの到来電磁波により人工的な痕跡の電磁波を発見することによりその存在を探ります。それとは別に、片方では液体の水らしき痕跡が見られる火星や木星のエウロパなどを、観測衛星などを使用し原始的な微生物やその痕跡のようなものを捜索したいと考えています。
この2つを比較すると、より一般的に衆目を集めるものは、やはり宇宙人と呼称するのにふさわしい知的生命体の探索の方でしょうか。しかしながらその電波等の発信源は極めて遠距離で実際に出会って、目で見ることは絶対にできませんので、見ることができそうな太陽系内惑星の生命探索と組み合わせることが衆目の維持には重要なのだと思います。

 

2 知的生命体
○宇宙人はいる
知的生命体としての宇宙人はいると思っている人は多いようです。太陽型の恒星の存在確率や赤色矮星を含めた小型恒星の保有惑星数と地球型岩石惑星の存在確率など、天文学的な基準としてのハビタブルゾーンというワードを大々的に言い出して宇宙人の存在可能性を当然のように広報しています。実際には恒星の温度と距離は単純ではなく、軌道が真円度合いや、恒星が出す熱変動や宇宙線量、自転周期、惑星の磁力のための内部層構造と核流動、また岩石惑星への水の供給問題など天文学では計算できない条件もあります。近年では有機高分子アミノ酸や核酸などの重合速度と分解速度の平衡条件なども生命発生の条件に入ってきて、フレッド・ホイルの確率も言われるようになってきましたが、それでもそういう条件を無視した宇宙人の可能性の方の喧伝の方が多いようです。
○進化と適応
さて、生命が発生し進化するとしましょう。そもそも知的生命体は、進化の到達地点であって、生命が発生した惑星では進化の結果として知的生命体にたどり着くものなのでしょうか。地球の生命進化において、系統樹という根本が多様で、先端に行くにつれて細くなり、最先端に進化の頂点としてホモサピエンスがいるという生命樹を適切と思う生物学者はいないでしょう。今では頂点に大量の枝先が到達して広く平になっている系統樹を示すことが多いです。現存する多くの生物が進化の頂点であるという考え方です。その意味では、これは進化というよりも適応という方が正確ではないでしょうか。
○機能と知性
人類において、知性の高度化は人類自身に何をもたらしているかというと、機能の向上であると言えます。猿人から原人、旧人、新人へと進化している間に火を使うようになり火食や野獣回避や夜間行動、言語を使うようになり集団行動や意思疎通での行為形成による暴力性の低下や、縫製による断熱性の高い靴や着衣は寒冷地への適応を成し遂げました。このような可能行動の増加が動物としての機能の高度化とみなされて知性の獲得は進化だと言われています。
実際には、猿人から新人までに起こっている動物としての形態の変化は、他の動物に対して進化という見方をする場合に対してごく僅かでしょう。現在は、猿人は属単位、原人は種単位、旧人は亜種の差ということになっていますが、近年、区分の壁は低くなっているように思います。特に旧人と新人は知性とそれによる行動形態という基準がないとほぼ分類できないのではないでしょうか。その意味で本来の身体機能と知性が同一視されている部分もあると思います。

 

3 知的生命体への進化の必然性
○知的進化は必然か
多くの人は、生物進化の最終結果として知的進化を捉えているところがあります。つまり、発生した全ての生命は知性を求めて進化するという漠然とした原則です。それが有るから、惑星探査で40億年以上の年齢が有る星が有ると知的生命の存在を想像します。果たしてそれは必然なのでしょうか。それを考えてみます。
○収斂進化と適応
進化末端を見ると、機能及びそれを実現する部品や全体の形態について収斂性が見えます。いわゆる収斂進化であり、イルカとサメとイクチオサウルスとペンギンの遊泳機能と体型が似ているというものですが、生物の種別に関係がなく、生活する環境に適応した結果、形態や機能が類似すると現象があると言われています。
○支配者の進化形態
収斂性を考えて、過去の環境の支配者、食物連鎖の頂点と言われる生物の機能を考えますと、カンブリア紀の海ではアノマノカリス、ジュラ紀の海では魚竜、白亜紀の海ではモササウルス、陸ではTレックス、新生代ではスミロドン、メガロドン、ホオジロザメなどですが、共通した機能は大きさ、筋力、顎(口)、牙(歯)があります。つまり、他を支配するためには、他より抜きん出た攻撃する能力を形態にも機能にも持っているということです。
○人間以外の高機能性
人間以外の高機能の獲得は遺伝や本能に依ります。そして、その高機能を単純化して少ない命令判断で実行するように発展するようです。ある狩人蜂は獲物を巣穴に持ち込む途中で落としてしまった場合、それを探して拾わずに持っているときと同様に巣穴に入って奥に置くような行動をしてからまた別の餌を探しに行くそうです。複雑な行動を判断の分岐を最小限にすることでプログラムの規模を圧縮して固定化し、堅牢性と格納性、子孫への伝達の確実性を上げるという高機能化を採っています。それにより体を小さくでき生存と繁殖のエネルギーを節約できることになります。
多くの動物、あるいは植物の機能化とはこのような傾向であり、人間のような、教育という長期間を必要とする知性による機能を取るのは特殊と言えるのではないでしょうか。
○類人猿における支配者形態
つまり、知性という進化形態はどの生物にも現れておりません。霊長類内で見るとチンパンジーが攻撃性、知力、筋力などの他の生物種の頂点を占める種と共通な機能を持つ、最も進化の頂点のように見えます。人間の機能は生物の進化の歴史を見ても見つかりません。人類700万年、またはホモサピエンス20万年以前には35億年の生物史に知的というものはなかったことから、この知的、それも認識論的な知性という機能はキリンの首や象の鼻、孔雀の羽のような過剰適応であり、進化のパーツではない可能性もあるのではないでしょうか。
○受動認知仮説と意識の役割
受動認知仮説というものがあります。私の認識でつまみ食いすると、人間の行動であっても主体は無意識であって、意識行動は無意識行動を理性が納得するように再構成した後付の記憶に過ぎない、というようなものだと思います。無意識行動のほうが適時迅速に行動できるので、熱さや痛み、物体の急接近に対する反射行動や危害を加えられた対象からの回避やサイレンや地震警報での緊張など条件反射行動が生態に重要な意味を持っていることでも明らかです。人間以外の動物の行動が素早く感じるのは無意識行動がほとんどだからと思われます。
あえて人間が意識行動を進化させたのは、5本の指や道具、火の扱いなど直感的には難しい復号化された操作を無意識行動化する場合に後付の意識で意味付けすることが多くの行動を身に着けるのに役立ったのではないかと思います。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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1 お金に関する不思議
○国債、借金
メディアで国の国債発行残高をもって国の借金として、その金額を人口で割って国民一人あたりの借金がいくらと伝えられることがあります。最近はネットで経済学者が、日本円での国債発行は国の借金ではなく政府の借金などと発言しますが、国民一人当たり○○円の借金という表現は未だに続けられています。


○欲しいのはお金
私が子供、父親は村の警察官派出所長だったことがあります。その時のお中元やお歳暮に、四畳半いっぱい、大量の一升瓶が届きます。それはそのまま村の会合や祭りに放出され、家では全く消費しないのですから、単なる倉庫代わりに使う風習だったのですね。近年このようなことは虚礼廃止によって激減していますし、お祝いなども物品よりもカタログ、商品券、時には直接ご祝儀などと、物より現金の風潮が進んでいると思います。みんな「お金」を欲しがります。「お金がすべて」「金の亡者」などの言葉や私の好きな狂歌に、世の中は、金と女が敵(かたき)なり、どうぞ敵にめぐり逢いたい。」という物があり、建前と本音がうまくつなぎ合わされているなと思います。
つまり、世の中には「お金」という宝があって、それを求めるのが人生目的のような感覚で間違いないと思います。実際に札びらを切る、のが成功者のシンボルだったりします。しかし、1万円札は原価20円らしいですし、それが食べられるわけでもない。これは一体どういうわけでしょう。

 

2 お金は如何にしてお金になるか
○物々交換の誤解
経済史において、原初は共同労働共同分配であった。その後に市場ができて物々交換ができ、市場の拡大により通貨が発生した、という説がありました。しかしながら、現在では物物交換はなかったというのが一般的です。対価交換は等価が原則ですが物物で等価交換はほぼ不可能です。季節でしか収穫できない作物、分割できない大型獣肉、または交換希望所要の誤差などは、三角交換や一対多交換など多数の参加者間での交渉が必要になります。それだけ複雑になると現物での交換の成立はこんなんでしょう。その対応には、交換材がなくても物品を供給する信用売買が必要になります。
物物交換は、信用売買は高度なので、文明黎明期の人類が発想できるはずがないという見下した視点があります。私は石貨で有名なヤップに行ったことがありますが、西洋文明が入る以前のヤップ人が、石貨を製造運搬の労働を価値として認証する能力を持っていることに感動しました。村単位なら十分に台帳や有価証券など信用取引で対応可能だということです。

 

○労働対価
多くの市民は企業で働いて、給与を受けています。お金の流れとしては、従業員はものを作ったりサービスをしたりして企業に売上をもたらします。その売上高から労働者は経費として給与をもらっています。お金の流れとしてはそうですが、経済学としては違います。労働者は両動力を対価として生存の保証を必要としています。企業は直接の生存保証ができないため、生存に必要な物品を手に入れるための、物品と交換できる価値を労働者に提供しています。つまり生存の実現を労働者の行動に代執行を付託しているわけです。労働力と生存保証の仲介として給与が存在しています。

 

○債権と債務
前項で給与は生存保証の代執行と言いましたが、給与支払いの段階では目的は執行されてはいないので、企業はお金で執行を保留にして、労働者もお金でそれを受け入れているわけです。つまり、執行と未執行の橋渡しをしています。これはとりも直さず証券です。
いわゆるお金を証券と見ると、お金に関するすべてのことが債権と債務で認識できるとわかります。労働者の労働により利益を得た企業は労働者に対し債務を負っている事になり、労働者は債権者となります。お金を払う人は受け取る人の関係は、債務者が債権者に対し債務の決済をしていることになります。

 

3 国債とは
○借金か
政府やメディアはプライマリー・バランスを重視し国債による財源確保を借入金と同一視し借金と表現しました。実際には財務資料を見ても、国債は収入扱いで借入金の借金扱いとは違います。ここが家計と違うところです。借入と国債の違いは有価証券を発行するか否かです。国債は国債証券を発行します。この債権は期限後には額面で現金に交換を保証しているので有価証券です。借金時に渡されるのは借用書であり、これは受け取った資金が貸主のものであるという証明であり、単に返金の請求権を認めただけであり、返還を保証したものでは有りません。返済能力がない場合は返還されません。
有価証券に代替される資金は資産になります。これは銀行預金が預金を資産として投資や貸金などに使用できることと同じです。

 

○如何にして通貨をコントロールするか
国債が資金調達していると言いましたが、それだけでは有りません。本来、中央銀行は通貨発行権を有していて、市場の通貨飢餓感を取られて適時に発行と回収を実施します。それによって市場や社会通貨総量を調整してデフレや急激なインフレにならないように、経済成長対応を見込んだ緩いインフレを目指します。
しかしながら、日本では日銀単独の資金供給手法が明確ではありません。確かに当時も国債発行でしたが、成長経済では税収が上振れしているために短期国債は上振れ分で償還できるために、国債発行という感覚はなく、財投などで日銀独自で通貨発行していませんでした。
そのため、バブル崩壊以降というかリーマン以降は税収が停滞するために短期国債は使用できず、社会や市場への通貨供給は不足します。そのため、停滞期の通貨供給は長期国債でしか実施できない状態にあります。日銀が国債の買いオプションではなく独自に通貨供給できない以上、停滞経済では国債発行以外の通貨供給方法はないということになります。

 

4 為替とは
○旅行と為替とメディチ家
為替の話になります。為替を発明したのはフィレンツェのメディチ家というのは有名です。貿易商業都市であるフィレンツェは資金を持って他国へ移動することが多く、物産を購入するためには現地の金貨など交換する必要があり、現地に多様な地域の貨幣に通じた両替が必要になり、これは同じ通貨を扱いながら金貸し業と違い利用者から受け取るのは交換作業に対する手数料であり、神のものである時間を私するものとして禁止されている利子収入ではないことから、キリスト教徒が金融業に参入できることになります。メディチ家はここに参入し各地に支店を作って両替を実施しました。
通貨を伴って移動することは今もですが、山賊が横行する当時はさらに危険でした。対抗として資金を守るために、治安の悪い地域では多数の護衛を雇わざるを得ないのですが、その経費が多額になり商売を圧迫しました。そこでメディチ家は、資金を予め当事者しか換金できない為替という有価証券化して、自分の街に有る支店に資金を預けて為替を作ってもらい、遠距離の街の別の支店で為替を渡して通貨として引き出せるようにして、旅程中の盗難を意味のないことにしました。

 

○複式簿記と為替
それが実施できるには、出勤と入金と為替発行を明確に区別できる複式簿記の開発が重要です。そして同じ形式の複式簿記を使用することにより、定期的な棚卸しと帳簿合せだけで各支店の会計が合算可能になり、紹介全体の経常利益、資産、債権、債務が掌握でき、支店の統廃合、新規出店などの業務計画が立てられる事になったわけです。

 

○銀行が支配する為替
そこで重要なのが為替です。持ち込まれる旅行為替を現地通貨に両替するわけですが、その交換比率は金貨の重量でなされればいいという単純な話ではありません。金でさえ商品となり得るものですから、需要と供給の原則は発生します。ですから幕末の日本におい駐在英米人が日本の金と銀の価値比率が世界の比率への修正が遅れたことを利用し不正に金を収奪した例があります。しかしながら、それは日本を未開と見下し、食い物にしようという欧米の共通概念があったからできることで、対等である欧州国間でやったら戦争になります。為替の比率を各国に納得するような値で決定することは納得する資格が必要です。そこで為替の基本レートはインターバンク市場で銀行や主要為替ブローカーだけが参加できる市場で決定します。まさにメディチ家以来の両替屋が生きていると言えます。

 

○為替の現状
一般企業や個人が為替を利用するのは、輸出で稼ぐのは外貨ですが、社員に払う給与と国に収める税金には日本円が必要になるために換金が必要になります。また輸入業者は国内販売した利益から再輸入のための原資を外貨で作る必要があります。その企業や個人にとって為替の動向は大切ですが、それだけでは膨大な為替市場は必要ありません。為替の主導は取引の9割を超えるトレーダーのマネーゲームで占められています。つまり、変動を企図して仕掛けて空売り、ヘッジ、買戻などの繰り返しで利益を得ます。本来ならば通貨供給量と通貨需要で決まるべき為替は大きく捻じ曲げられている状況だと思います。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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1 令和6年度の予算執行がおかしい
○調達案件が出てこない
私は官業務の外部委託、特に調査研究に関わる調達請求の案件の競争入札を探しています。第1四半期に関しては新規契約はないので、先月から調達ポータルで調達案件の調査を始めましたが、それから1ヶ月、調査研究として入札可能な案件が1件も出てきません。年度内の納入品なのですが、この時期に入札がないと半年の期間が確保できなくなり大規模な調査の執行は困難になります。感覚的ですが、異常な状態だと感じています。

 

○予算執行の原則
案件の調達は、取り見直さず当初の業務計画に則った年度予算の執行行為になります。昨年度の予算編成時に作成した計画で、どの時期にどの案件にお金をつけるかは決まっており、納期を年度末にしての必要実行期間から逆算した契約時期に合わせた調達を行います。
その金額と規模は、支払いは納入後、契約完了時ですが、予算の各省庁配分は調達要求時期であり、その時点で必要な金額が国庫に存在することが原則となります。

 

○今年の特異な予算配置
今年度の特異な予算環境とは何でしょうか。それは能登沖地震です。災害対策予算や復興予算に関して色々あった地震対応ですが、現在は災害復興予算は一般会計の予備費から1兆円を充当することになっています。一般会計の予算は税収が原資ですので、第1四半期末に国庫に有る納税額は法人の予定納税と給与等の源泉徴収に限定されます。
そのような状態ですので、本来は早期の執行計画がなく充当されないはずの予備費を確保する必要になっていると思います。限られた第1四半期予算での執行計画は停滞することが予想されます。

 

2 予算とはなにか
○予算要求とはなにか
予算とは何でしょうか。国家も家庭の家計簿と同様に収入と支出がありますし、家計と同様に収入額に応じた、食費や通信費、教育費などの家計支出の計画を立てる必要があります。国家予算とは、国として当該年度に国が活動するための経費を前年度に予測したものです。財政規模という予算総額は、税額などの収入が決まるのは当該年度末ですので、この計画は前前年度の確定した税収等を基準にして、前年度の予算を修正したものであると言っても良いと思います。財務の独自の仕事はこの規模を決定するのが殆どになります。
その内容については各省庁の仕事です。各担当部門からの当該年度の必要事業経費を組み上げたもので、財務の省配分指示で其々の項目の選択と圧縮量を調整します。

 

○予算要求は概算要求と呼ばれる
概算要求の概算とは予算額が大まかな方向性や規模を示すだけで、ある程度いい加減であるということではありません。不正確な金額積み上げで経費予測では省内も対財務の理解も得られません。通常、官の会計行為は根拠のある実額で行われます。実額なので円単位までの雲揚げが必要です。しかしながら予算要求における概算は、千円単位で四捨五入されています。「○○(千円)」と表示します。契約や会計行為では実額で円単位まで記載するのが本来ですので概算となります。積み上げ単価はだいたい百万円程度なので、誤記載チェック、検算時の手間が半分になります。

 

○概算要求の要求とは
予算は財務が上から組み上げるのではなく、下から、つまり各省庁、各担当のからのすべての事業項目に必要とされる予算要求額の合算になります。各省庁は恒常的経費に関しては、人員設備その他資産などから計算しますが、事業経費は各担当部門が各地方自治体からの要望や設備施設の更新時期を考慮し、当該年度に必要な事業に係る経費を積み上げます。その要求額と内訳、事業概要と要求理由を付けて財務に要求します。財務は各省庁の要求をまとめて資料化し政府に提出します。政府は与党内で協議し、事業選択の修正を行い政府原案として国会提出し、衆院、参院の順で国会審議を実施して可決決定し、これを持って、各省庁は省の業務計画の開始を指示します。

 

○予算の組み上げ法
各省庁はどのように予算を組み上げるのでしょうか。主要なルートは、各自治体が住民からの要望を受け事業要望として担当省庁に要望します。各省庁の事業担当は、各所からの上がってくる要望から当該年度実施の必要性などを考慮の上で事業を選択し、各事業の必要原材料購入費、必要役務量から求めた人件費、などから経費を見積もります。その経費を事業計画、目的、必要性、経費積み上げ資料などを合せて省庁の予算担当者に提出します。予算担当は総額を財務の担当と調整し、可能な総額に収めるために、事業の分割、小規模化、引き伸ばし、代替などの可能性を事業担当に提案します。その結果として財務省の税収予測に適合した予算が出来上がります。

 

3 予算決定のスケジュール
実際の予算作成スケジュールから、予算の構造を見てみましょう。

 

○10年前(X-10)
予算作成は事業計画の作成から始めます。省庁の公的な事業計画の最長は10年です。これは10年先の日本社会情勢、技術進歩、対外情勢がある程度の確度を持って見積もれるのは10年が限界だと思っているからです。これを、見積もりだけでなく長期事業計画として事業案化するのは、実作業計画である中期計画立案までの間に、必要な省庁間と対外国との調整を完了しておく必要があるからです。
調整とは、安保やFTA、PPTなどの国際協定の必要性、新たな人員や省庁内部署の新設の可能性、電波や海面、国有地などの割当分確保、長期に渡る予算計画などがあります。

 

○5年前(X-5)
5年間の計画は中期計画と言っていろいろな省庁や企業、その他法人が作成しますので目にした経験があると思います。以前はニュースなどに中期防衛力整備計画を中期防とよんでその内容が話題になっていましたのを覚えているニとも多いと思います。
中期計画は各省庁間の調整が終わって、他の事業とのすり合わせや、運用者とのすり合わせを行う期間です。この時期に事業の実施を決断します。

 

○前前年度(X-2)
この時期は予算要求の準備です。運用者や設置自治体、担当事務所、例えば動をならば国交省は道路局から道路建設の事業要望という形で要望を受け取り、実際に要望通り省の予算要求に加えるかを審議します。合せて、新たな事業の運営に必要な土地や人員増員の要望人事系統で実施します。

 

○前年度(X-1)
予算要求作業を開始します。時期が重要ですので細かくなります。この年の前半は、各省庁の審議になりまして、省庁案作成までの手順として読会制に則って1読、2読、3読と3回行うところが多いようです。これは国会にける法案作成と同じ手順となります。規模金額が大きな省庁の場合、それ以前で各部著内部での0読などを行う場合もあります。1読は要求趣旨説明です。主に省庁の計画・企画担当部門や関係する他担当部署との読み合わせとして、事業概要、事業の必要性、時期的適合性などの事業内容の説明と質疑応答ということになっています。
次の2読は要求内訳説明です。主として総務の財政・会計・人事担当との読み合わせとして、人員・予算の規模、その必要時期、事後の維持経費、償却計画など人員経費に係る説明と質疑応答となります。3読は1読2読の修正要求事項を盛り込んで、ほぼ完成案を財務との調整原案として局長級への説明を実施します。
7月末、省内の対財務調整案が完成した頃に、概算要求基準(シーリング)が財務から示されます。これは各省庁要求限度額になりますので、各省庁は省庁案を調整して基準額内に入れ込む超作業します。調整要領としては主に、事業分割の上での一部次年度送りが多いです。担当は予め多様な分割案を作成し多くの事業との入れ子構造に合致するように対応します。
8月中旬にそれを終了させ、省庁内、財務担当への調整の後、文書化して8月末に財務へ省庁原案としてする大臣の名を持って提出します。その後、年内いっぱい財務に対して各ランクごとの説明になります。9月主査説明、10月主計官説明、以下局次長、局長は財務主計官が実施で質問対応になります。
12月に財務原案と大臣折衝を経て、ニュースなどで多くの人が認識する財務原案の政府提出、与党審議の上で1月の通常国会に合わせて政府原案として国会提出し年度末までに国会通過して成立します。

 

○当年度(X)
当該年度は予算の執行です。執行は税収が国庫に有る分だけしかできません。実際の支払いが年度末であっても、予算の確保がなされない状態での彫琢行為の公示はできません。財務省は月ごとに作成した業務計画の示達計画に則って、収入である予定納税や源泉徴収など税収の状況によって時期を調整します。基本的に財務省からの事業予算の各省庁宛の示達計画は四半期ごとを目途に準備されますので、財務と調整の上で示達請求を実施して示達後に調達請求、入札、契約の後に業務実行、納入、検査、支払いで事業終了となります。

 

○次年度(X+1)
年度末で次年度は決算と報告書の作成になります。実施状況や成果、問題と対策を継続する事業、同様な事業に対する参考資料。また、実行内容が新規システムなど、技術報告や論文などで外部への門の可能性がある場合、特許関連部署と調整の上で成果の論文執筆や特許出願などの行為が必要になります。これは、企業や関連した組織が特許申請、新案登録、学会論文などの成果を上げた場合に、官を共同利益者に押し込む証拠になります。

 

○次次年度(X+2)
2年後になると、前年度に決算処理が終了した各省庁事業に対する会計監査、会計検査が、担当部署や契約企業に対して発生します。特に会計検査院の検査は今後の執行に影響しますので、疑問になりやすい事項の必然性について資料作成します。ここで、重要なのは時間拘束役務の兼業、購入物品の未使用、購入機材の維持費などが特に注目項目です。

 

4 今年は異常
○能登沖地震の災害復興費の謎
今年度の予算示達がおかしいのではないか、それに災害復興費が関係しているのではないかということを前述しましたが、なぜそう感じるかを説明します。
能登沖地震は規模の大きさ、被害の広範囲さにより激甚災害に指定されました。激甚になると被災者支援など災害対策への支出の国の出資比率が大きく上がり、予算の処置が必要になります。とにかく緊急に巨額が予想される予算処置は特別会計が処置されると思いましたが、令和5年度内は予備費の残額から有るだけ支出し、本格的な費用は令和6年度の一般会計の予備費を充当する事になり、予算の殆どは次年度送りになりました。確かに復興計画などは当年度に出てくるはずがないのですが、金額が確保され、いつでも使用できるという状態を作らなかったのは驚きです。

 

○特別会計と一般会計
特別会計を取らなかった理由は明確だと言われています。財務が財政規律重視で国債発行を避けたと言われています。一般会計は税収で賄われますが、特別会計は専用に予算を確保するために国債を発行します。名目を決めて発行された国債は流用はできません。一般会計も通常の予算は項目などを決定されていますので流用はできませんが、予備費については項目が決定していませんので、どのようなものにも流用できます。国債の場合、国債の借り換えなどで長期に確保され財務の手を離れてしまいます。

 

○予備費とは
予備費を災害に使用することは問題有りません。一般会計の数%程度で、年内に執行完了できるような災害、例えば豪雪での除雪作業や水害の泥除去作業、堤防修理など単作業で年度内に決済可能ならば、全く問題有りませんし、作業も通常の予算と殆ど変わりません。しかしながら額の大きなものに対応する機能は高く有りません。予備費は多額にかけて執行できなかった、請求が来なかった場合、国債償還の前倒しくらいでしか予算処置できません。予備費ならいくらでも大盤振る舞いできるということになります。

 

○事業費圧迫
ここで予備費を災害支援、復興費にする問題は、事業の執行計画を狂わせるということがあります。予備という執行計画がないものは、執行計画が明確なものの方を優先しますので、費用の確保は通常請求が優先され、執行枠の残額分を予備費として積み上げていくことになります。いつでも来る可能性のある災害地支援などを予備費で充当しようとすると、年度当初にも来る可能性がありますので、年度開始から迅速に予定額を充足する必要があります。
第1第2四半期は予定納税と源泉徴収が税収の殆どになりますので、予備費に先取りされると事業費が圧迫され、計画は可能な限り後ろ倒しになると考えられます。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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1米国のおける武力
○トランプ氏、撃たれる
トランプ元大統領の射殺未遂事件、というか一般の方で射殺されている人がいるので射殺事件なのですが、いつもは米国の銃乱射事件が有る毎に、日本のマスメディアは銃規制の必要性を最初に言うわけですが、何故か今回は銃規制に関しての報道が薄いように感じます。これはある意味でリベラルメディアに漂う、リベラルの利益なら犯罪も否定したくない感情なのかもしれません。これはリベラルの、規則より理想、の考えなのである程度予測できる様相です。

 

○武力の分類
日本では自衛隊と警察しか武器を所持して武力を行使できないので2層構造しかない武力ですが、米国の武力は多層化しています。日本と同じように分類すると、国軍である合衆国軍、各州に有る州軍、各州に有る州警察、郡保安官、各自治体警察(市警)、自己防衛などになると思います。ただ、武力組織、警察、司法の体系は各州、各群、各市で独自の体系を持っていて、ほとんどがかなりの武装をしています。
日本では軍と警察は全く違いますが、欧米ではその間は曖昧です。外国のテロ組織が市民間で活動することも想定されるし、敵軍に国軍が降伏した場合、市民を防護する武力は警察しかいなくなるからです。大戦時のパリ陥落後のドイツ軍とパリ市民の間に立ったのはパリ警察だったというのがパリ警察の誇りであるようです。

 

○国軍と州軍
国軍は基本的に侵略国への攻撃によって侵略を排除するために国外で戦闘します。そのために世界各国に駐留軍をおいていて国内の軍事施設は訓練など戦闘力備蓄の意味が大きいです。そのため自国を直接防衛するのは州軍の役割です。州軍は合衆国憲法から見ると正規軍ではなく民兵に分類されます。この州兵主体の役割分担は国軍側の理論ではなく、各州の連邦政府に対する対抗策であると言われています。

 

○保安官とは
保安官と聞くと、日本人には西部劇の登場人物で、警察官のように犯人、手配犯の逮捕をする役職のように思えますが、実際には判事補や刑務官、裁判所職員等の役割があって、刑事のみでなく民事にも対応して、判事行為以外の紛争解決に関する全て司法と行政行為を担当していると言えます。司法と行政を分離する日本と大きく異なります。

 

2武力としての銃
○銃とはなにか
まず銃といいますが、実際にはその威力や用途、危険性は千差万別です。多くの分類はありますが、簡単に拳銃、小銃、散弾銃、機関銃と分けましても、有効な射程は20mから200m、連射は単発から300発以上まで、多様にあります。これは、殺傷能力も多様であることなので、例えば、自分の置かれた環境の危険性、脅威の種類に対応して銃を選択できるために、銃自体に殺傷武器という感覚よりも防衛の道具といった感覚になる理由かもしれません。
最も危険性がない護身の場合に持つスタンガンなどの非殺傷銃も広く言えば銃ですが、非殺傷と言いながらそれは一般的銃のような貫通力を持っていないと言うだけで、何かしらの衝撃を相手に与える道具であるからには相手の状態や環境により、殺傷に至る可能性は十分にありますので、拳銃などから隔離されたものではなく環境による選択が細かくなるだけで、拳銃を排除できるものではないと思います。
このような多様さ故に銃規制が連発性の制限、使用可能弾薬による制限、射程による制限等であって、銃そのものの禁止にはなっていないことでもわかります。

 

○銃がない時代
銃の効用は銃がなかった時代の様相を見ればわかります。銃がない時代の遠距離殺傷兵器の主体は弓でした。和弓は道具や射手により5mから400mまでの殺傷能力が有り、それだけを考えれば銃と大差はないですが、熟練度が必要なことに大きな違いがあります。できない人はまともに飛ばすこともできません。家においていてから使用するまでに弦を張ることさえもできないでしょう。

 

○銃によってなされたもの
銃が戦争に利用されてから、日本では戦力を激突させる組織戦戦争がなくなってしまったため認識はないですが、火器の威力がそのまま勝敗というようになった傾向があると言われています。これが今日までつながる武器開発競争の原点でしょう。
銃の威力差がそのまま味方の損害の小ささに繋がるのは、植民地獲得が短期間でなされたことからも明らかです。

3市民の持つ武力

○国民の基本常識の範囲
当然のことですが国民毎に持っている武力についての考え方が違います。その国の歴史が侵略や内戦に溢れていたり、社会体制として国民皆兵や徴兵制、兵役がある場合、地政学的環境で国境紛争、領土問題があった場合など、武装に対して接する機会が変わってきます。
銃の所持を許可している国はたくさんありますが何の制限もない国はないようです。猟銃や競技中も含めれば、すべての国は規制可での所持を認めているということになります。各国は国ごとに何らかの法制度によって規制の幅を決定していることになります。その違いを他国が理解するのは、要因の多様さ、根深さからいって、例えば宗教を理解するのと同じくらい難しいことではないでしょうか。

 

○自己防衛
米国は移民の国です。それは開拓の歴史であり、とりも直さず先住民や開拓者同士の競争相手との紛争の歴史と言えます。登記等によって所有地を国が保証してくれない場合、その保持の困難さは予想できます。その状態では身内に弱者を許容できませんので、武器を保有して女性でも他者を排除できる能力を持って初めて、危険な場所でも家族帯同できることも示しています。

 

○政府への抵抗権
歴史のない開拓の国であるということは、慣習法が存在しない国であるということです。各地からの移民者が各地の慣習を法として行使できない状態は、国が法律を定める場合に、法の大原則である慣習法の優越を主張できないことになります。法律や国家制度が移民者の慣習や宗教理念の考慮なしに降り掛かってくることになります。思想信条の自由、信教の自由はそのまま国に対する抵抗権に直結します。

 

○独立戦争がもたらしたもの
米国にとって独立戦争こそ抵抗権の発揮です。実際にはイギリスが米国にやったことは単なるブロック経済や輸出入管理法の適応かもしれませんが、必要な量を自由な価格で手に入れることは規制を拒絶することで、母国からの規制を拒絶するためには武力行使が最短であると考えた時代だったと言えるでしょう。

 

○南北戦争がもたらしたもの
南北戦争は独立戦争です。北部の重商主義、工業化と南部の重農主義、大規模農場制の衝突で、南部独立を労働者や土地の確保のために妨げたい北部の闘いです。南部の重農主義は機械化、集約化で壊滅はしなかったのですが、家屋資産の破壊やその後の農業関税の主導の喪失など南部に打撃を与え続けます。米国民に同胞の分断、武力の劣勢とはどのようなものかを思い知らせた闘いだと言えます。

 

4新たなる不安の材料

○BLM
警官による容疑者圧死問題から発生したBLMの基本は相互不理解と恐怖感にあります。米国は多人種国家であると同時に多文化国家です。コミュニティ毎に文化が大きく違っています。人との距離感が大きく異なったり、遵法観念が大きく異なったり、また使用する言語のスラング化が進んでいて、意思疎通がスムーズでない世代になりつつ有るようです。また人種ごとに体型や基本体力が大きく差があり、同じ動作が恐怖の対象になります。恐怖の対象が法的な規制を受けないで接近できている状態は自己防衛を意識させる環境であるとも言えます。

 

○移民
移民は米国における多様性、コミュニケーション障壁を増加させることにほかなりません。これは実際の犯罪や脅威の問題ではなく、職のない、定住地のない、習慣を共有しない、言葉も通じない集団が近隣にいて、生活圏に入ってくる状態を示しています。武装というのは恐怖への対抗策です。

 

○LGBT等
これはLGBT自体がSOGIの問題になっていることでしょう。性自認での男女区分の強要の問題があります。この問題はBLMのときと同じように、主張しているだけの男性が女性専用施設、トイレやシャワールームに共存していることが、他の女性に対して安全を保証しているという確証が与えられないということになります。
また性自称の問題も有るようです。外見と性自称が異なるゆえに、間違った呼称に対して、それをLGBTへの攻撃と感じて、過敏に反応し攻撃的になる場合があります。この場合、今までの環境と違いどこに脅威があるかわからない、不意に襲ってくる脅威の恐怖になる可能性があります。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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1 米国の民主党、共和党
○特色の決定
南北戦争の時代から続く両党ではありますが、その性格が決定したのは大恐慌に民主党政権が実施したニューディール政策によって、国費の積極経済で富裕層や革新派を掌握し、肥大化するルーズベルトの権力に対抗するために、保守層が共和党に集まったことにあるようです。戦後の対ロシア、反共産主義の国民感情は共和党の活力になり、その性格を決定づけました。


○現状
現状で言われていることは民主党のリベラルと共和党の保守主義であるものの、実際の政策は民主党の改革主義、適時進歩的、高福祉弱者救済、共和党の保守主義、規制緩和、低負担、といった方が良いでしょう。ただトランプ氏はもともと民主党であったことから純粋な共和党政策は施工していないので、典型的な共和党の特色にない国内経済保護から関税など積極的に活用しています。
ここで明確な問題を回答してしまいます。理解した人はこの項以降を読む必要はありません。リベラルの主張は、成文法は過去の知恵であり、現在に発生する新たな問題には、現在の知恵での決定機関である国会決議で対応すべきで、その結果を持って法律は改正されれば良い、というものです。対して保守は、法律には生成した要因やそれで解決したかった思いが基盤にあり、それを学んで尊重して、すべての決定はそこから導かなくてはいけないというものです。その決定を十分に考慮した後に必要があれば法を改正して、それ以降に適応すれば良い、という思考です。
つまりリベラルは法律に縛られません。現在の当事者の幸福のみが決定の基準です。

 

2 リベラルと保守について
それでは両党の特色としているリベラルと保守は実はかなり勘違いされているので、それぞれ考えてみましょう。〇リベラルを理解する
リベラルはそのまま自由主義ということですが、それは欧州においては、慣習などの非合理的でありながら支配的な権威からの自由を意味するということは間違いなく、本来はそれだけの意味なのです。しかしながら、実際に政治的権力、特に民衆と領主の関係のような身分制度の圧迫関係を国内で経験しない米国においては、独立戦争で自立してしまった後は、身分などの抑圧からの自由の意味があまり見いだせなかったために、何からの自由を求めるかが様々に変化し多様化しているように思えます。
これは、欧州については第一次大戦以降の君主政の崩壊、アジアについては第二次大戦以降の独立による共和制で、戦後独特なのヒューマニズムの雰囲気の中で、民主政治を体験する米国以外の国々は、米国の指導するリベラルに混乱することになります。
混乱の要因は、何かから自由になることは何か旧制度や社会的繋がりを破壊することを要求されるからでした。欧州が中世以降、教会権力からの自由、絶対王政からの自由など段階的に行われて、少しずつ旧制度を包含しているがあるために自由を追求することは、今日の自分を明日の自分が否定することになるからです。。

 

〇立法つまり議会制民主主義におけるリベラルについて
日本的にはなかなか理解されないですが、三権分立における立法は、議会制民主主義にとっては国民の合議となる各議員の合議としての行政決定権のことですが、これが自由であるものは実は憲法からの自由に他なりません。憲法絶対主義の日本人には理解が困難でしょうが、憲法とは成文法としての憲法典だけのことではなく、原理的に憲法とされる慣習法も、一般的社会常識も含めたものでと考えられます。権利章典はもともと神授されていたと言っていた王権を議会制民主主義が国民の合意により凌駕できるということになります。それは民主主義の時代においても同様な完形をすることができます。
憲法は、憲法制定時点の議会の合意であり、その時点での良識、慣習、規範意識ということになります。リベラル的思考からすると法は過去による拘束となります。

 

〇保守とリベラルの憲法の見方
憲法は明確に国の在り方を示したものである。しかしながら、その実態が文章で記されたものと過去の生活から経験的に身に着けられた慣習であるということから、その存在に対する見方によってその意義は大きく異なってきます。
保守における憲法は国家成立の理念である。国家が成立、または国民が国家の支配者になった時に、その遠い理想を箇条書きにして書き連ねることで具現化した理想です。そのために、何か国家の運営や正否の判断に迷ったときには必ず立ち返る国家の起点としての道標に他なりません。時代の変化によって慣習や社会、技術の変化によって適応しない状況が発生して変更する必要があれば、理念の再構築の手続きをもって原点の自由のために戦った功績のある先人の視点をも併せて再構築する必要があるものです。
それに対して、リベラルにとっての憲法とは、歴史的な自由であり成立当時の指導者の権利章典の理解に過ぎません。議会が設定する法律は民主主義原則に則っていさえすれば、民主主義の理想に対する位置づけは議会の可決する法律と憲法の間に上下関係はありません。それによって、議会、議員は平等や自由の現実的基準を適宜性以上に将来社会を先取りして推進することができるということになります。
つまり、簡便な言い方をすれば、社会の在り方について憲法に立ち返るのが保守であり、議会が社会を変革する権利があるのがリベラルということであり、ともに時代への適合性としての変化する手続き論、または漸進と急進ということで大きな違いはありません。

 

〇リベラルは急進する
リベラルの原則に従うと、先進的個人を支援することが先進性であるために、リベラルは急進する傾向がある。保守は社会の安定を重視するために行動を規制する傾向があります。
いずれにしても、憲法改定の手続きが単純な多数決ではないことからもわかる通り、社会制度の大きな改革は簡単な多数の支持では実施できません。この意味は、過去の順法行為を違法行為と転換するには、すべての人間の理解が必要であるという認識であり、半数が半数を違法脱法に追いやることが自由主義の求めるものではないということです。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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