『古代オリンピックの求めたもの』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

オリンピックとは

近代オリンピックのルーツであるギリシャの古代オリンピックは、その目的を不戦と友好に置いています。第一次大戦で近代が作り出した科学技術が国家間の継承や問題や領地の所有に関する紛争に過ぎなかった戦争をその時点での世界である欧州を2分し、しかも国家の存続を揺るがすほど人命の消耗戦になり、欧州に深い対立と困窮を招きました。欧州、特に貴族社会の社会調整能力を活用した不戦、融和ということで古代ギリシャのオリンピックの開催中の「聖なる休戦」に注目したわけです。

古代オリンピックのシステム

・エリスとオリンピアとゼウス
オリンピックの開催ポリスはエリスという後進ポリスです。この力のない後進ポリスがオリンピアの近くにあったのが幸運だったのでしょう。オリンピックの会場であるオリンピアの地は、デルフォイとともにどのポリスにも属さず、ギリシア全体の崇拝を受けるゼウスの神殿がありました。オリンピックはゼウスを祭神として神に競技会を捧げる神事として行われたものででした。これは、もう一つの独立な聖地であるデルフォイが、アポロン神殿における巫女の伝える神託にが、入植の可否や戦争など、ポリスの重要な決定がなすことにより人々の運命とポリスの命運を左右するものとされ尊ばれたのと同様に、オリンピアは主神ゼウスのギリシャの存在に必要な祭祀のための聖地でした。

聖なる休戦

・なぜ停戦したか
近代オリンピックは平和の祭典と銘打っていて、競技ができる平和な世界を作ることや、競技者が一同に介し同じ条件で競い合うことでの国際融和の実現を目指している。これは古代オリンピックの平和とは意味が逆である。古代オリンピックは競技を神への捧げ物とする神事であり、目的はオリンピアでの競技であり、聖なる平和は競技実施のための競技者の移動を阻害しないための主催国エリスからの3ヶ月の不戦要請です。

・オリンピックが最優先の訳
オリンピックの目的は全てのポリスが参加し、全てのポリス市民がゼウスを主神とする同じ神を信仰するヘレネスであり、内戦はあってもバルバロイに対しては共同して対抗するということの確認行為であったようです。その意味で自由人であれば貴族と一般市民を明確にしない裸の競技者の意味は、裸を神聖視するヘレネスと裸を猥褻で粗野とするバルバロイとの違いだけが重要という意味でもあったようです。その意味で宗教儀式としてのオリンピックは民族確認のオリンピックとも言えるものでした。つまり、参加することに意義があるのではなく、参加するだけでも意義がある大会ということです。
オリンピック種目で特に人気があったのは戦車競技です。の競技主体は馬や馬車の所有者であり、同等の力を持つ4頭の馬を所有できるのは貴族であり、4頭立ての戦車に騎乗するのは司令官級に仕える馭者である。土地所有貴族が領民から私兵を編成して軍隊とするギリシャでは、貴族すなわち司令官がオリンピックに参加するということは部隊から離れるのことであり戦闘を停止しているという証拠でもありました。

なぜオリーブ冠だけで良かったか

・オリンピックのもたらすもの
参加することに意義があるということの理由付けとして、古代オリンピックの勝者にはオリーブの冠以外の授与はなく、2位3位は単なる敗者であったことが挙げられ、勝つことに大きな意義を与えていない事が挙げられます。
当然、現実は違います。オリンピック勝者とは競技に勝ったツワモノと言うだけではありません。競技はゼウスに捧げたものであり、競技者の肉体の完成度もゼウスに捧げたものなので、勝利者はゼウスに最も愛されたものということになります。彼らが得たものは神の祝福であり、その結果として彼の完成された身体は、神の恩恵を付帯したものになったということです。

・ポリスに勝者がもたらすもの
勝者の帰還がポリスにもたらすものも期待されています。それは勝者の迎え方にも現れています。各都市は城壁に囲まれていて出入りは城門からのみなのですが、オリンピックの勝者は城門を通らずに壁を破壊して入り、その後にすぐ城門を修復することで神の祝福にポリスからの出口を見せないで閉じ込めるという儀式をするそうです。このような待遇からも勝者は選手としてではなく、神の恩恵を授かったものであり、都市からの待遇や報奨は神の恩恵を留めるための捧げものであり、滞在費である。

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC Partners株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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