『水素燃料の活用』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

水素の特徴

・液化しにくい
液化温度はメタンが-162℃に対して水素は-253℃であり、これは工業的に大量生産されている液体窒素の-196℃以下であり、工業的には簡単に製造できないことを示している。また、保管に関しても液化天然ガスが液体窒素による冷却機構を使って長期間輸送が可能なことに比して、保持輸送が難しいことを示している。

・拡散しやすい
水素の分子拡散係数は0.61c㎡/sであり、メタンの0.16c㎡/sと比較して拡散しやすい。

・燃焼性が高い
酸素との質量割合では、炭化水素と比べて極めて燃焼性が高く、物質としては高燃焼性と言えるが、しかしなガスとして使用する場合に体積や圧力で換算すると、炭化水素と大差ない。

・燃焼速度が速い
炭化水素で最も燃焼速度が速いエチレン(0.7m/s)と比較しても4倍近い(2.7m/s)燃焼速度がある。

・発熱量が低い(圧当たり)
分子量が小さいので、ガス体積またはガス圧力当たりの発熱量は10.8MJ/㎥と小さくなる。これはメタンガス35.8MJ/㎥の1/3しかない。

水素燃料の動力化用途

・液体燃料ロケット
宇宙用の大型ロケットに搭載する液体水素、液体酸素の混合燃焼により推進するシステム。着火性が高く希薄から高濃度まで広い出領域のコントロールが可能なので、軌道投入や起動離脱などに適している。また、ノズル変形による燃焼ガス圧の影響を受けにくいので、スイベルノズルなどのスラストコントロールが可能。

・スクラムジェットエンジン
極超音速で希薄燃焼により巡航するためのラムジェットエンジン。通常のラムジェットエンジンはノーズコーンとノズルで障壁を作り燃焼室内を音速以下にして安定燃焼を確保するが、6Ma以上の極超音速だと燃焼室内でも混合気体の流速が音速になり、炭化水素の燃料では通過時間内に燃焼できないので、極超音速には水素を燃料とした。しかしながら、燃料のエネルギー不足から燃料をジェット燃料に切り替えて燃焼可能速度の5Ma程度での開発に移行している。

・ガスタービンエンジン(開発中)
再生エネルギーの電力貯蔵として水素を生産した場合の、水素から電力を再生産するための発電機として考えられている。また天然ガス発電を直接燃焼してCO2を排気するのではなく、事前にプラント内で脱CO2して水素としてタービン燃料にすることで、CO2の埋設などの管理をするために、既存の火力発電用タービンを水素燃料化する。

・水素ロータリーエンジン
マツダが開発し、ロータリーエンジン車とロータリー発電ユニットのHVを試作している。ロータリーエンジンは給排気口のない状態で燃料噴射するシステムのため、吸気時や排気管の熱などによる早期燃焼が起こりにくく水素燃焼には適していると言われている。ただ単位体積あたりのエネルギーの低い水素では既存のシステムでは出力が出にくいので発電ユニットならともかく、駆動用のエンジンには使いにくい。

・水素レシプロエンジン
トヨタが開発しレースに投入する。通常のエンジンの給排気系統、点火プラグ、燃料噴射器を水素燃料に適合させ、MIRAIの貯蔵タンクや水素配管技術を併せたもの。燃焼エネルギの低さは燃焼速度によるレスポンスやターボチャージャーで対応するのかもしれないが、明らかになっていない。

・水素燃料電池モーター
トヨタのMIRAIで実用化されている、水素を酸素と接触させることにより発生する電気を利用してモーターを回すシステム。

水素燃料の電力貯蔵用途

・電力貯蔵
必要に応じた製造ができない風力や太陽光発電等の導入で発生する、電力生産のばらつきを平準化するための電力貯蔵として、余剰電力で水素を生産し貯蔵し、必要に応じて燃料電池などで発電するための貯蔵システム。
電力貯蔵には電池、キャパシタ、フライホイール、バナジウム、揚水、圧縮空気など、貯蔵期間、貯蔵量により多様な方式があるが、大量でしかも輸送可能なものとしては水素が適している。

・高圧気体と液体水素
貯蔵には高圧タンク、金属吸着、液体水素での貯蔵がある。高圧タンクは700気圧から1000気圧、液体水素は40kg/㎥、金属吸着は重量%で5%程度の貯蔵が目標なので40kgの水素を貯蔵しようとすると800kgの金属が必要になる。液体水素の40kg/㎥は同じ体積で高圧タンクの20倍の水素を搭載できるが、水素の液化に関わる経費は水素製造と同程度であり、価格に明確に現れる。

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC Partners株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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