『ヘリコプターの原理』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

火星でヘリコプター

(1)火星でヘリコプターを飛ばす計画
NASAの小型ヘリコプター「インジェニュイティ」が最終試験を実施中だ(これを書いている間に成功したというニュースがありました。)。インジェニュイティは探査車パーサヴィアランスの下面から切り離され、バッテリーと太陽電池からの電力でモーターにより4枚のブレードを回転させ飛行するシステムです。
火星探査は従来、火星を周回する探査衛星や衛星から分離された周回探査機が全球的な視点から画像や輻射環境から惑星の表面及び内部の構造や地質学的特徴をつかみ、衛星から地表に投下した固定着陸機や車輪駆動の無人探査車が鉱物や岩石層を間近で観察、分析するという役割分担でありました。
ここに低高度から広域を観測できるヘリコプターが加われば、周回機よりも詳細に、探査車が立ち入れないクレーターや渓谷、火山等の調査が可能になります。

(2)なぜヘリコプターか
火星上で飛行するシステムは、圧縮ガスや燃焼ガスの噴射が最も一般的です。しかしながら、火星は簡単に往還ができないために、探査機や探査車は長期運用が原則ですので、消費するエネルギーは唯一火星でも獲得できる太陽電池の電力を蓄電することになります。燃焼ガスはおろか圧縮空気でも時間がかかりすぎると考えます。火星の環境では、電力で直接ローターブレードを回すことが現実的と言えます。

火星での飛行をネタにして、ヘリコプターの原理を考えます。

ヘリコプターの原理

(1)飛行機とヘリコプターの違い
航空機が飛び上がる原理は、飛行機が滑走路を使って加速し、高速で前進することにより翼の上下を気流が通過することにより翼に揚力を発生させて、翼で機体を持ち上げる機構です。対して、ヘリコプターは加速のための滑走路なしに飛び上がることを目的にしたひこうきであり、機体は固定したままで翼に揚力を発生させるために、翼だけを高速で移動させる機構を採用しています。

(2)ヘリコプターとドローンの違い
ヘリコプターの上部で回っているものはローターブレードつまり回転する翼と呼ばれています。揚力発生が目的ですので、空気の圧縮して下方に吹き付けることが目的のドローンのプロペラとは正確に言えば違います。回転翼は揚力発生が目的ですので、ブレードはほぼ回転面に対して水平かほんの少し上反角がついた程度ですが、プロペラは回転面に対して大きなピッチ角、それも先端と根本のピッチが大きく異るブレードを使用する場合が多いです。そのため回転が止まったり、回転させるパワーが無くなって空回りしている場合にはプロペラで浮き上がっているものはすぐに落下しますが、回転翼の場合、風を受けてさえいれば揚力が発生しますので、飛行機と同じようにとまでは行きませんが、滑空飛行を行うことができます。回転数もドローンのプロペラは1分間に1万回転近く回るものもありますが、ヘリコプターは、空気の剥離が発生しないように200から400回転に押さえてあります。
もう一つ、プロペラのダウンウォッシュで浮き上がるドローンの場合、プロペラの上下に障害物があるとダウンウォッシュがうまく流れないのでプロペラは機体からはみ出して、上にも下にも機体が掛からないように配置しますが、回転翼の場合は浮力が翼に発生しますので、機体の真上に回転翼があっても、とは言っても地面効果があるので無いに越したことはありませんが、問題はありません。

(3)火星のヘリはなぜ大変か
空力に影響する環境要因は、気温、気圧、重力(機体重量)ということになります。地球上では空気密度か高いので温度上昇による密度減少は影響しますが、希薄な空気の火星では気温の揚力への影響はほぼないと思いますので、気圧と重力ということになります。気圧は空気の濃さですので、揚力の発生しやすさの基準になります。重力は持ち上げる対象の重さなので、必要な揚力に対抗する力になります。
気圧は7ヘクトパスカルなので大体1/100くらいですので、これが揚力の発生しやすさになります。重力は 3.71m/s2でほぼ1/3の重さになるということになります。それでは揚力の少なさが大きく勝っていますので、それを補償する構造、機能を付与する必要があります。ブレードを30倍揚力を発生しやすい構造にするのでしょうが、超希薄気体での揚力の発生メカニズムは回転翼の原則である気流の表面剥離ギリギリの回転数まで回すということでしょうが、その結果を見てみたいと思います。

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC Partners株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

記事一覧へ

この記事をSNSでシェア!