『首都直下型地震の確率と統計』青山先端技術研究所/エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

今何が言われているのか

地震についての危機情報に、M8~9の南海トラフなど首都直下型地震の発生確率は30年間で80%、というものがあります。これは2013年に文科省の機関である地震調査研究推進本部内の地震調査委員会が発表したもので、2013年の報告では70%以下でありましたが、2018年の報告では80%以下に上方修正されています。

何故そのような値になったか

M9クラスの地震が今後30年間で80%の確立で発生するというと、一見地震を予知しているように聞こえますが、従来のように自然界で見られる地震前兆現象と言われている地面隆起や地下水面の上昇なの変化を観測して、その変化量などから大地震を発生前に検知しようとする予知とは異なります。
この数値は、過去に発生した地震の規模データから、ある期間の地震発生の確立を推定しているに過ぎません。
過去400年の地震発生を過去の文献記録からM数値ごとの発生回数を読み取ります。読み取った地震のM数値と回数をプロットしグーテンベルグ・リヒター則に適合するものとして、最適対数カーブを引きます。そこから過去に回数が少なくて頻度データにならない大きなM数値の発生頻度を推定する事ができます。
この発生頻度を1年間に換算して、この年間発生割合を発生M8~9まで、30年間積分したものを地震発生確率としています。

簡単に言うと何と言っているのか

つまり、過去の様々な地震のデータから、発生頻度と地震規模の関係をグラフにして、そこからM8~9の大規模地震の発生頻度を導き出して、それを30年分積分したら80%になったということです。

統計と確率の違い

ここで統計とは何かということを考えますと、過去の発生事象の数値からその間にあった要因と数値の上下を比較することで事象の影響度を推定し、どのような事象を改善するべきかなどを導き出すものです。
確率の推定という手法は、故障確率などの性能を知りたいある母集団があったとします。全数検査しない場合は、幾つかの無作為抜き取り検査をして、その抽出集団の結果から母集団の性能を推定するものです。

確率、統計的推測の特徴からみたこの確率

統計は過去のデータからそのデータが出た要因を解析するための手法であり、将来を予測するものではありません。また確率は抽出したデータの抽出元の母集団の性能や特色を推定する手段であり、いずれも将来の事象を推定するものではありません。
この首都直下型地震の確率は、過去何万年から将来に渡るまでの首都圏で発生する地震が同一の環境条件下で偶発的な分散を持って発生し続けている全体で一つのグループで、そこからデータのある800年の数値をサンプリングし、そのサンプリングから母集団である現在の地震発生環境全体の地震発生頻度を推定したという成り立っているのではないかと思います。そもそも、グーテンベルグ・リヒター則を使用する時点で出てきた確率に精度や信頼性を厳密に示すような性質のものではないでしょう。

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC Partners株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

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