『量子コンピュータを考えてみました』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

量子コンピュータの本格化

最近、量子コンピューターの話題がよく出ます。そもそも日本では、4月から8月までの5ヶ月間には新しい事業や技術の話題がよく出てくるようになっています。それは、来年度予算の編成手順において、4月が省内の1次元案の立ち上げ時期であり、省内の議論と選別を経て、財務と折衝の上で最終提出時期が8月中旬、それまでに事業の企画内容や技術内容を、財務の主査や主計官に認識してもらうことが重要だからです。そのために関係するメディアなどを通じてプロパガンダするわけです。

それは別にして、量子コンピューターほど実用性の説明とその技術内容の理解の差が大きいものはないのではないでしょうか。同様な先進技術である自動運転やカーボンニュートラル技術と比較して、また地球外生命体探査や新たな交通機関などと比較しても、解らなさは群を抜いています。0でも1でもある量子ビットを使うため2進法の数値は全て表現できる、ということはわかりますが、それがどのような演算様式になるかは極めてわかりにくくなっています。

 

量子とは何か?

かつて原子と言われた物質の最小構成単位は、現在では「素粒子」と言われています。最もよく観測できる素粒子は光子と電子です。これらの2つは粒子性と波動性を持っています。光はよく知られており、ニュートンリングで波動性を、光電効果では粒子性を示していて、波であり粒子であるということは学校でも習います。電子については波動性は明確に常識化していませんが、最新の原子モデルにおける電子の状態が電子の軌道回転ではなく、電子雲と言われる確率的な存在であることに関しては常識となりつつあります。この確率的存在というのは電子の波動性の別の表現になります。電子1個を2本のスリットに向けて撃ち出した場合に、どちらのスリットも同時に通過した干渉現象を示すことから、電子は左右のスリットを確率的に通過しているということになり、それは干渉現象をもたらしているということであり、波動性を示すことになります。このように素粒子は物質性と波動性を示します。

この波動性とは取りも直さずエネルギーの確率分布です。電荷も重力も定常状態ではエネルギーを保持できません。宇宙空間でボールを投げると等速直進運動をしますが、これは慣性系では静止状態でありエネルギーを持ちません。エネルギーは確率分布することで波動によるエネルギーを保持することになります。

このような波動性と粒子性を持ったもの、別の言い方をすれば物でありかつエネルギーであるものを量子と言います。光子は回路制御が難しいので電子を使いますが、特に電子について荷電粒子としての特性を使うときには電子、波動性を利用する場合に量子という言葉を使うように思われます。

 

波動を演算に使用する

波動は時間とエネルギーの2次元数であるので、存在自体が2ビットになります。その上に重ねることで足すことも、逆位相化して足すことで引くこともできます。特に重ねる事象と振幅変動が時差がないために、ゲートなどがないためデジタルよりも速度が早いといえます。

重ね合わせができますし、重ねたあとも現波動への影響はありません。重ねたものを分離識別することはできませんが、合成した波動には合成内容により特異的な多様な周波数の干渉波動が重ね合わさって発生しその周波数分布から多様なデータを取り出すことができます。波動なのでデジタルのように矩形信号ではないため、波動の有り無しについてどちらとも言えない領域が多くありますので、データを統計的に処理する必要があります。

 

アナログ的なデータ処理

このような波動を使った処理はアナログ的な重ね合わせになります。デジタル処理とアナログ処理は手法が全く違います。適切な理解しやすい計算例はなかなかないのですが、一例を、量子コンピュータに適切かどうかはわかりませんが考えました。例えば、多く楽譜の写譜の中から比較によって正しい写譜を取り出そうとします。デジタル処理の場合には最小拍を時間単位として1音のデータをピアノの鍵盤ならば88音階で全曲、全パートをデジタル化して数字の比較をすることになります。

アナログの場合、楽譜上の全ての音をそのまま重ねてしまいます。その周波数をスペクトラムとして全写譜で比較すると、最も確率の高いスペクトラムが出てきます。

量子コンピュータはゲージなどでありアナログ処理とは違いますが、感覚や考え方としてはこのようなものだと思います。ビッグデータから規則性を引き出す方法には適しているかもしれません。

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC Partners株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

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