『農業DXとモビリティ』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

農業とDXとモビリティ

DXの有効機能を一言で言えば生産性の向上であり、その機能をどのように利用するかが経営者に求められています。実は原料と製品比率から言えば、農業こそ極めて高生産性産業なのです。米などは種1粒が約半年の育成で1600粒の収穫が得られます。どのような産業でも特殊な条件なしに1600倍、16万%という生産性が保証された産業はありません。

しかしながら、農業の生産性が悪いものという認識が一般的なのは、土を対象とする汚れる産業であること、作業姿勢や荷重作業があること、実作業時間ではなくても拘束時間の長さがあること、気候など自然現象による収益の不安定性さなどがあると思われます。つまり、産業の基本的生産性をやり方のまずさで台無しにしているということになります。

このような不具合は、国内の農業保護による農産物の価格維持がなされず、途上国産品との競争にさらされるという行政の問題がありますが、それでも気候など情報の取り扱い、動力アシストなどで障害を取り除くこと、モビリティを含む物流システムの改善などで対応でき、DXとモビリティ自動化の本来の役割である障害の排除はこのような不具合や障害をツールによって解消するところにあります。

 

農水省の掲げる農業分野における課題

農業分野では、担い手が2015年の176万人から2020年の136万人と減少し、年齢構成も65歳以上の割合が2015年の64.9%から2020年の69.6%と高齢化の進行が見られる等により、労働力不足が深刻な問題になっています。

農業分野の外国人材の受け入れは、2014年の1.7万人から2019年の3.5万人と5年で2倍の急増傾向にありましたが、コロナ禍に伴う入国制限により、一時は全国で2,500人の受入の見通しが立たない状況になっており、外国人労働者頼みの労働力の危険性が明確になっています。

農業の現場では、依然として急峻地での作業、加工選別など人手に頼る作業、手入れ収穫時期の判断等、熟練者でなければできない作業が多く、省力化、人手の確保、負担の軽減が重要な課題のままとなっています。

 

農水省が提案するスマート化

・農業モビリティの自動化、ロボット化
操作アシストによる直進維持機能を持つ田植え機は、操作が不慣れな従事者が植えても、通気、日照、不倒性が高く、機械稲刈りに適したまっすぐな田植えができます。運転アシスト機能付コンバインは収量センサを装備しており、穀物タンクの残容量を予測して最適なタイミングで排出ポイントに自動で移動することができます。また追肥作業機では搭載カメラと施肥機を自動連携させ、育成状況に応じた精密な施肥が可能になります。
農業におけるドローンの規制緩和により、ドローンによる農薬散布の規制緩和が実行され、人や車両の立ち入り禁止区域を定めれば、補助者の配置なしに目視外の農薬散布も可能となりました。
また農業用の簡易型パワーアシストスーツや運搬ロボット、座ったまま移動できるモビリティにより腰への負担や運搬の軽労化を実施し、就労可能年齢層の拡大、男女の作業差の解消などが図れます。

・農作業エキスパートシステム
マニュアル化が困難とされてきた熟練農業者の高度な生産技術を、AI等により「見える化」し、熟練農業者の技術・判断を継承するとともに、新規就農者の技量的な就業障壁を低減させ、就業者の増加が図れます。

・場水管理システムによる水田の水管理の遠隔・自動制御化
水田水位などのセンシングデータを常時モニターし、給水バルブ・落水口を遠隔または自動で制御でき、降水、水温など気象による育成不良や病害等の減収要因発生を防止できます。

・圃場の低層リモートセンシングに基づく可変施肥技術
ドローンカメラによるセンシングにより、圃場内の生育バラつきをマップ化し可変施肥の最適化を実施することができ、農薬量と散布作業の極限化、省力化、収量と品質の向上が図れます。

・衛星リモートセンシングを活用したクラウド型営農支援サービス
人工衛星が撮影した圃場の画像を解析し、農作物の生育状況を診断・見える化してレポートし、圃場ごとの状況に応じた作業計画の立案、適切なタイミングでの施肥や収穫が可能となり、 高収量化、高品質化、省力化に寄与するとともに、農機遠隔操作や給水管理等の農業ICTサービスも可能になります。

・データ連携とモビリティ自動化によるフードチェーンの最適化
農業製品の生産から流通・加工・消費・販売まで一連の農業、農産物データを連携し、作付、作柄などの生産から卸売価格、輸送費用などの流通・加工、消費者嗜好・消費・販売まで最適管理が可能なスマートフードチェーン、昼夜運転が可能な自動運転輸送トラックや自動配送倉庫などの使用により物流の柔軟化、共有化する事によって経済効果を上げるとともに、CO2排出削減や需給マッチングによる食品ロス削減により、環境負荷の低減が図れます。

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC Partners株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

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