『宇宙事業の利益性』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

宇宙事業の区分

後発の産業であり、急速に技術主導で発展してきた宇宙技術は、ロケット発射の能力がなくては成り立たないために、ロケットというキャリアを基盤とする系統が明確であり、紡績という基盤の上にしか成り立たない繊維業界などと同様に、大規模な川上の下に多様な川下が広がっています。また、川上のプラットホーム開発自体が巨額な事業であるために、宇宙開発はプラットホーム主体で進んできた技術であるため、川下の産業の育成や理解が未熟であり、また可能性の模索中で事業の創生の余地が大きく起業機会があります。まず、宇宙産業を川上から見てみましょう。

 

 ロケット開発事業

実はロケット開発は大陸間弾道弾の開発であり、当然ながら国の事業でした。戦略武器の制限が始まった以降は透明性確保もあって、多くの国はロケット開発を民営に移行し、1980年のアリアンロケットから以降は米国においてスペースシャトルの退役もあって、米国を中心としてアリアンスペース(EU)、シーローンチ(USA)、スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(USA)、Rocket Lab(USA、NZ)の民間企業が民営化しています。

ロケット開発は自動車などと同様に様々な産業の集合体です。メインエンジンとしての液体燃料ロケット、ブースターとしての固体燃料ロケット、姿勢制御システム、機器作動制御監視システム、地上管制との通信・テレメトリー、衛星放出システム、分散させ再突入廃棄などがあります。このようなシステムは一見は繊細で高性能を求める最先端な精密機械のように見えますが、実は機体の運動や燃焼の制御などに電子機器などのような高速性を求められてはおらず、ひとえに信頼性を極限に追求する、いわばスクリーニングと信頼性確認試験の塊とも言える製品です。工数の塊になる製品だからこそ民間が参入できますし、参入効果が見込まれる商品で、信頼性と価格の費用対効果で競争され、また、一旦良質な製品ができれば様々な派生モデルが製品化でき、市場を専有できる可能性もあります。

 

衛星開発

衛星にはその機能や規模によって様々な種類があり、その開発難易度が異なります。長期間使用する場合には軌道維持のための加速エンジンが必要になりますし、指向性のアンテナやカメラを持つものは姿勢制御エンジンを必要とします。継続的な受信信号増幅などにある程度の電力を長期間使用する場合にはソーラーパネルが必要になります。

それでもロケットと同様に信頼性確保以外に宇宙に特有な機能などはありませんので、比較的取り組みやすい産業だと言えますが、少量多品種で需要傾向がどうなるかは、携帯電話の衛星中継化などの今後の宇宙利用次第でしょう。

 

衛星運用事業

衛星はそもそも必要な事業に応じて運用されます。主な事業は通信、資源探査、位置評定、気象監視、地上監視、惑星探査などがあります。

通信衛星は基地局が設置できない地域への電話やデータサービス、広域へのテレビ放送、遠隔地の無人機器の指令や救難信号の中継、資源探査衛星は赤外線吸光などによる森林データや温度差による水資源データ、各種スペクトラム分光データによる鉱物資源データが取得でき、採掘を希望する業者に対して供給する事業ができます。

位置評定衛星は3つ以上の衛星の位置とその位置にあった時刻、受信した時刻データを知ることで、衛星の位置と自分からの距離から自分の3次元的位置を測量するシステムです。気象はミリ波レーダーにより雨滴を検知して、降水の規模、雨雲移動速度などを計測し提供します。価格の高い衛星であり、基本的に気象庁の管理なので衛星調達は公共事業であり、利益率は高くありません。

 

打ち上げ事業

衛星打ち上げには地域的制限があります。何よりも失敗して落下する場合を考えて十分な開放地が必要です。海ならば海面使用の告示をすれば可能ですが、陸上だと立ち入り制限を実施する必要があり、実施の可能性は低くなります。そのために海洋に面した地域を打ち上げに確保する必要があります。

そして天候です。ロケットは初速は低いので、打ち上げ直後の雲中の氷塊は危険ですし、水滴は落雷の可能性があります。晴天率が高いことも重要です。また地球の自転による遠心力が高いと見かけの重力が減りますので、低緯度のほうが効率的です。このような理由で最適な場所で打ち上げ請負の事業に委託するほうが無理に自国で実施するよりも効率的になります。国内の打ち上げ施設は種子島と鹿児島と北海道帯広にありますが、日本の晴天率や漁業や航路による海面の専有の困難さから見て、企業努力では価格競争には参入できそうもありません。

 

宇宙探査事業

宇宙の事業としての宇宙探査には望遠鏡等による観測探査と、探査衛星を送って実惑星を直接探査する方法があります。望遠鏡による探査の目的として、第一に素粒子や重力波などの理論物理現象の実在証明としての始原宇宙や宇宙的事象の調査があります。これらの観測事象からブラックホールや暗黒物質など物理仮設が組み立てられ、加速器などによる実証明に向かるわけです。

第二にはスーパーアースなどのように地球外生命探査のための地球型惑星の探査があります。これら2件は純粋に学術型の探査であり政府の学術研究費を主体とする事業にしかならないので、規模は限定されます。

もう一つは往還できる系内惑星や衛星に限定されますが、資源探査です。希少金属やヘリウムなどの製造不能な元素を採掘、利用を前提とした地下資源の探査採掘です。現状としてはどのような資源でも価格的に釣り合うことは考えられませんが、月などから他の惑星に移動する場合などに現地で資源を調達する等の可能性はあるかもしれません。

 

宇宙工場事業

以前から無重力や真空、クリーン、極低温度などの宇宙の環境を利点して、地上の環境では製造しにくい半導体原料や精密機器などの製品の製造工場を作ろうという案はありました。しかしながら、現在ではAIなどによる高速で精密な環境設定が可能になり、また、希少金属などの豊富な物質による代替も可能になり、電力供給や原料、製品輸送などを考慮すれば、大規模な宇宙工場建設など割に合わないことが明確になりつつあります。

 

宇宙移民事業

現在、イーロン・マスクの計画を始めとしていくつかの火星移住構想が存在しています。まだ、ロケット開発計画や長期間閉所生活実験など事業とは言いにくい実験などがなされている段階ですが、火星探査により水の存在がなければ酸素の供給源が確保できないので技術面以前の計画自体の実現性自体が0%を離脱できたわけではありません。この状態で生命の危険がある事業をどんな国であっても許可するはずがありません。

 

宇宙旅行事業

現在実施可能と思われる宇宙旅行は3種類あります。第一は宇宙高度を頂点とする弾道飛行で、費用はいまのところヴァージン・ギャラクティック社で3千万円程度です。主たる観光材料は、漆黒の宇宙背景にした球形の地平に青い海と雲、それと僅かに透かし見える薄い空気層といった天体としての地球の実感、あわせてその宇宙空間中での無重力体験といったところでしょう。第二はISSや2027に計画されている宇宙ホテルなど低高度宇宙ステーションへの滞在です。費用はスペースXとISS使用で60億円程度です。観光材料は、何度も地球を周回しますので、各大陸の観察や超高層雷電などの上空気象の観察、星の観察、無重力を利用した宇宙実験や遊泳体験などかなり多様になりそうです。第三は月周回軌道の往還による月面観光です。こちらの価格は1回あたり1000億円近く掛かると言われているようですが、全く分かりません。観光資源は月面特に普通は見えない裏面の目視、月面越しの地球観察、地球周回軌道離脱時の第2宇宙速度の体験などでしょう。

この価格水準ではとても事業とは言えない。国の衛星打ち上げや宇宙ステーションへの物資輸送の固定契約でもないと事業維持は難しいのではないでしょうか。

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC Partners株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

記事一覧へ

この記事をSNSでシェア!